短編「勤労感謝の日」
「本屋大賞、川端賞」で触れた、川端康成文学賞受賞者の小説家、絲山秋子。
今月発売の文學界5月号に短編「勤労感謝の日」が掲載されている。先日は、絲山氏の作品に触れ損ねているので、ちょっとだけ。
主人公の恭子は、勤労感謝の日というのにやさぐれている。36歳で無職の彼女には祭日も関係ない、失業保険は薄く、就職もやばい。おまけに、裏に住む長谷川さんとの義理によって、見合いまでセッティングされた。けったくそ悪い相手をぶっちぎって、かつて勤めていた会社の後輩、水谷に呼び出しをかけ、渋谷で飲む。バブル期に就職活動をし、もっとも平等に扱われそうな会社に女子総合職として入ると、それがお為ごかしでしかなかった、しかしガンガン働いた頃のことを話して…
短い話なので、ここから先の細かいことは書かない。水谷を解放して家の近くまで戻るが、すぐに帰る気になれず飲み直す。そのくだりがよい。気分の悪い日に愛用するその店で、こう描く。
「私はこの店に夜を買いに来るのだ。真っ暗で静かで狭い夜一丁。」
そうして、淡々と終わる。
バブル期、就職が楽だと言ってもそれは男子だけ、女子はたいへんだった、それでも今よりはまだよかったといった事実。また、どうしてあんなにと思えるほど働いたあの頃の仕事への感慨。いやみなく会話の中に活写される。それが飲み直しを経てラストにつながる。
このラスト、書き過ぎって人もいるかもしれない。けど、こんな夜がほしいこと、おそらく一度や二度じゃないでしょ? これでいいのだ。
ちなみに、巻頭掲載である。その次に、佐川光晴の中編「弔いのあと」。
これもいいんだけど、終わりのまとまりがよすぎて、「勤労感謝の日」よりちょっと印象が薄めかも。あぁ、でもまぁ、手にしたら読んでみてくださいね、きっと。意欲作だから。
さてさて、来月の新潮には川端賞受賞作が掲載される。
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