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2004.04.22

アラン・ケイ博士、チューリング賞に輝く

なんかかんか、ニュースはあるもんだね。
アラン・ケイが2003年のチューリング賞を受賞、という発表があった。以下に情報源を。

アラン・ケイ博士、“PC業界のノーベル賞”「チューリング賞」受賞(インプレス、Internet Watch)
SqueakLandのニュース

しかし、インプレスさん、いくらなんでも“PC業界のノーベル賞”はないんじゃありませんか? PC業界というと、ひどく矮小なイメージになってしまう。もっと幅広く、しかもアカデミック寄りだ。(一応、記事本文にはそのように書いてはあるけど、見出しのイメージは重要なんじゃないでしょうか。)
チューリング賞は、チューリング賞を出すことを目的とする財団があるわけじゃない。ACM (Association for Computing Machinery)という、コンピューター科学に関する世界最初のアソシエーション、つまり、学会だ。多くのコンピュータ関連の研究者は、ここを含めたいくつかの学会に所属する。重要な研究と貢献をしたとみなされる人を表彰し、賞金を出してより研究に励むように、というもの。ちなみに、その年に重要な研究をしたというのではなく、それまでの研究成果が大きく着目され、「あれがあったから、いまこうなっている」とはっきりしたものが対象になっていることが多いかな。
フォン・ノイマンと同時代人にして、計算理論から人工知能問題まで幅広く研究を続けたアラン・チューリングの名にちなむ賞だけに、ACMが出す最高の賞。そしてコンピュータ科学に関する学会としても最高レベルの賞と言われる。

これまでの受賞者のリストを見てみよう。
1971年のジョン・マッカーシー。人工知能学会を立ち上げて、AIブームを巻き起こした。
1972年のエズガー・ダイクストラ。アルゴリズムの専門家であり、コンピュータ言語ALGOLにより、構造化プログラミングを提唱した。
1974年のドナルド・クヌース。アルゴリズムや計算理論の詳細を究めた大著で有名。また、組版システムTeXの開発者。
1977年のジョン・バッカス。世界最初の高水準コンピュータ言語FORTRANを開発。また、バッカス-ナウア記法の発明により、コンピュータ言語の定式化にも貢献。
1981年のエドガー・コッド。データベースの先駆的研究者。RDBの概念提唱をはじめ、実装に至る多くの研究テーマをもたらした。
1983年のケン・トンプソン、1984年のデニス・リッチー。UNIXオペレーティングシステムの、最初期の研究開発者。もちろん、C言語など、重要な開発も。
1984年のニコラウス・ヴィルト。コンピュータ言語ALGOLの研究を発展させ、Pascalを開発。アルゴリズムとデータ構造の研究を押し進めたことでも有名。
1987年のジョン・コック。RISCコンピュータに関して、CPU命令セット、コンパイラなどを含む広範な研究を行った。
1988年、アイヴァン・サザランド。画面上で画像をどう扱い、どう描くかというコンピュータグラフィックの基礎を確立した。スケッチパッドという最初のグラフィカルなコンピュータは、1962年の発表、後続の研究に莫大な影響を与えた。
1997年、ダグラス・エンゲルバート。マウスを発明。1968年、マウスとキーボード、画面によるインタラクティヴなコンピュータを開発し、デモ。ヴィジョンを提示した。
2001年、オレ・ヨハン・ダールとクリスティン・ニガード。1960年代に最初のオブジェクト指向言語Simula IとSimula 67を開発。

一般の人々にインパクトを与える研究をちょっと抜き出しても、これだけある。パソコンというより、コンピュータ全般の発展に貢献した人が選ばれていることが想像できるだろう。

アラン・ケイが何をしたかはもう、先の記事にも軽く触れてあるし、検索すればそれこそズラーッと出てくるはずだ(日本語でも)。
多くの場合、Dynabookという現在のノートパソコンに直接つらなるようなコンセプトを提示したことが有名だ。ただし、コンピュータ科学という面では、Dynabookの理想を1970年代の技術で構成して見せたAltoで、ヴィジョンを見える形で提示したこと。そこに搭載したオブジェクト指向言語Smalltalkの仕様を決定したことで有名。
サザランドのグラフィカルなコンピュータという概念、エンゲルバートの発明したマウス、ダールとニガードによるオブジェクト指向言語(というよりシミュレーション言語と呼ぶ方が正確か)といった先行する研究を膨らませて、「紙のように使えるコンピュータ」「それを使って教育できるコンピュータ」というヴィジョンに結実させ、実装例を示した。
それはアップルのLisa、MacintoshというGUIをもったパソコンに宿った。そうして、いまのWindows時代がある。

だけど、そういうものは実は、アラン・ケイの目指した世界とは違う。ましてや、ビジネスに役立ついまのコンピュータでは得られないものを、本当は考えていた。Smalltalkとは、利用環境と開発環境が渾然一体に溶け合っていて、人が考えた事をどうコンピュータ上で見える形にするかに、最大の焦点があった。掛け違えたボタンを、どう考えるべきか。
アラン・ケイはその後、Smalltalk-80に基づきつつ、それを大幅に拡張し、その後の様々な研究成果なども見つつ、自身の新しい概念も含めて、Squeakという世界を作り上げている。
これは、言語であり、実行環境でもある。それまでの反省もふまえて、開発環境として使わない人でも役立ち、楽しめるように設計され直している。しかもOSやマシンに出来るだけ依存しないように設計されてもいる。移植されれば、どんなマシンの上でも同じプログラムが、同じように動く環境でもある(Windows、Macintosh、各種UNIX、WindowsCE、Zaurusなど)。昨年は和書も出て、話題になった。
マックに影響を与えた、ということはもう一々言わんでもいいだろう。彼が1970年代に考えたことを実現できるだけのハードウェアやネットワークが、やっと揃ってきた。これから彼の理想がどう発展していくかも、大事なことだと思う。
(そうは言っても、現実の生活では普通にMac OS Xユーザをやってる自分だったりする。)

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