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2004.04.08

SunとMSの和解と提携、その背景

やっぱりマイクロソフトはとんでもねぇ」の最後のほうで、ITmediaの記事をリンクして一言だけ触れた、SunとMicrosoftの提携。日本では週末にかかったため、記事の多くは週が明けてから出たようだ。以下にいくつか掲げるが、もっともっと報道されている(選択に他意はなし)。

米Microsoftと米Sun、歴史的な和解により“敵”から提携関係へ(インプレス、Internet Watch)

昨日の敵は今日の友--サンとマイクロソフトが和解(CNET Japan)
特許尊重への動きを示すマイクロソフトとサンの和解(CNET Japan)
  (CNET Japan、他にも関連記事あり)

SunとMicrosoftが歴史的な和解、過去の係争をすべて終結(日経BP、IT Pro)
MicrosoftがSunと和解,10年契約で技術提携(日経BP、IT Pro)
MicrosoftとSunが和解! いったい何が起きたのか?(日経BP、IT Pro)

なにしろアップル・コンピュータ以上に辛辣にマイクロソフト批判を繰り返してきた会社である。それが和解した上に、10年に及ぶ技術提携の契約をした。その重みは確かに、歴史的という言葉になるだろう。
この提携はどっちに有利なのか、どちらがどちらの軍門に下ったのか、という話になりがちだが、一概に言えないところがある。

***

まず確かに、Sunは売り上げ・利益の両面で苦しい立場に立たされ、株価も全盛期の10分の1になっている(LinuxディストリビューターのRed Hat社より低い)。台所事情が苦しいから、喧嘩をやめてお金をもらって、という勘ぐりが成立しやすい土壌はある。
そうはいっても、日経BPの分析記事「MicrosoftとSunが和解! いったい何が起きたのか?」にもあるように、手持ち資金が57億ドルある企業にとって、19億5000万ドルの和解金およびライセンス料がとても必要なお金かどうか。
むしろ、投資家と業界の中での立場に気を遣っていると考えたほうがいいように思う。たとえば、ウォールストリートの投資家連中は、Sunに対して「Javaを捨ててサーバ事業に注力し、株価を回復せよ、そうでないと株はもう戻らない」と警告を発していた。もちろんサーバ製品での利益をJavaに投資して、ハードウェア商売中心から、ソフトウェアやサービスも含めた総合メーカーに切り替えることを目指していたのだから、こんな話には乗れないだろう。
また、Sunがどんなにがんばっても、Windowsそのものを駆逐することは出来ない状況だ。だいたい、Javaアプリケーションの開発エンジニアの多くは、Windowsの動くマシンで開発している。
相手(Microsoft)が知的財産権を侵さないなら、ライセンスしてお金を受け取り、Javaが必要不可欠なものだと認知させたほうがいい。その上で、まっとうに勝負するほうがいい、なにしろいままでは単に罵り合っていて、相互運用さえ出来なかったのだから・・・という判断はいかにも働きそうだ。

一方、Microsoftは今年に入ってから、Windowsをライセンスした際に、使用技術がライセンシーの特許に触れていたら、特許料金を払う形態に改めた。使いたい技術が手元にない場合、強引に自社開発していたMicrosoftが、相手に金を払って知的財産権を尊重するようになっている。
そして、Googleを越える検索技術を開発して次期Windowsに組み込むと公言する一方で、Javaに対してはお金を払って使うことにした。
Microsoftは.NETでJava対抗を押し進めてきたが、Webサービスを構築する上ではJavaに先を越されている。サーバー事業は堅調に努力しているが、UNIXを食い荒らすほどには成長していない。しかも、Sunはメーカー製PCに働きかけて、SunのJava実行環境を最初から組み込んでもらって出荷するようになってきた。Microsoftは自社でJava実行環境を開発したが、Sunとの特許係争のために古い仕様のままになっている(JDK 1.1相当、一方SunはJDK 1.3〜1.4で、今年は1.5の出荷が見込まれている)。
このままでは、Web関連のプロトコルを通じた業界標準から孤立してしまう可能性もあった。クライアントだけでがんばっても、この部分はどうにもならないと判断したのではないか。
Javaのライセンスをきちんと受けて、MicrosoftのJavaもまっとうな状態にする、必要なライセンス料なども払う。その上で、.NETとの相互運用性をSunときちんと詰め、改めて勝負する。勝敗を決めるのは、それからでも遅くない・・・そんな思惑がありそうだ。

今回の提携は、単なる罵倒合戦をやめて、競争と協力がかみ合う状態に一度持っていきましょう、という意味合いが強いだろう。
これが正しいなら、今の時点でこれからどうなっていくかは、すぐには見えないということになる。

***

一方で、これに対してどう反応するか、非常に興味深い企業がある。
IBMである。
かつてメインフレーム・コンピュータ時代にIBMが発揮した業界標準としての支配力は、今のMicrosoftなどの比ではなかった。あの時代を知らない人にとっては信じられないだろうが、ハードウェアも周辺機器もソフトウェア(OS、開発ツール、パッケージなどすべて)もそれに絡む特許もかなり握って、知的財産権で日本の互換機メーカーを追い落とし、米国での独占禁止法裁判もなんとか切り抜けて、本当に広範囲に渡る力を持っていた。
確かに一般の人にとってはWindowsパソコンを作っているただのメーカーの一つに成り下がったように見えるかもしれないが、そうではない。Intelのチップを使ったノートパソコン(ThinkPad)やブレードサーバは悪くないし、ソリューション事業は好調。POWERチップは、最初こそ自社のサーバやワークステーションと、アップルのパソコン中心だったが、組み込み用途(ルータやレーザプリンタ、工場などの制御)は向上中。ゲームに至っては、任天堂ゲームキューブだけと思っていたら、SONYのプレステ3以降に採用されるCELLの基礎技術を提供し、MicrosoftのXBoxまで採用を決めて、ゲーム界の標準チップとなってしまった。実装能力でIntelと渡り合える数少ない企業だし、コンパイラから開発ツール、サーバ、クライアント、それらを横断するソリューションを提供できる企業。いまでも潜在力は本当に大きい。
そして最近、エンタープライズ分野においてJava採用が広がり続けているのは、IBMが本気で取り組み始めたことが大きい。ただし、メインフレーム用アプリケーションをWebサービス化する際に、Sunの開発ツールは一般企業の情報システム部門向けとは言い兼ねるところがあった(技術専業の人にはそうでもなかったが)。IBMは開発ツールEclipseを投入、最近になって別団体に移管し、IBM独占状態ではないように配慮する動きを見せている。Eclipseは特に昨年、爆発的なユーザ層の広がりを見せ、Sunの開発ツールを直接使う人が目立って減り続けた。Sunは、開発ツールを改良してEoD(Ease of Development)を実現すると言ったが、それくらい意識している。
しかも、IBMはSunに対して、Javaそのものをオープンソースにすることを求めた。これに対して、SunはJavaが様々なディストリビューションに分岐してしまうとして、オープン化はしないと答えた。
Sunは確かに、Javaの標準実装と互換性検証キットなどを整備することで、Javaがあちこちにとっちらかった技術とならないように気を配っている。一方で、1999年以降JCP(Java Community Process)という標準化団体を立ち上げ、自社ですべての仕様を握らず、協議を行った上で仕様を決定していくようになっている。これは実際に機能しているため、SunといえどもJavaのことを何でも決められる訳ではなくなった(もちろんIBMも参加している)。ただ、IBMのように何でも作ることが可能な技術陣を揃える企業が「ウチもSunのようなポジションにいればもっと貢献できる−−正確に言えばSunと対等の立場に立てればもっとうまくやる−−のに」という表明が出てくるようになった。

Javaは、Sun(に在籍するJames Gosling)がコンピュータサイエンスの粋をうまくバランスさせて生み出した、すてきな原石だ。当然Sunは、大きな付加価値をもたらすものとして、今以上に育てようとしている。組み込み関係では携帯電話が、エンタープライズ分野ではメインフレーム級アプリケーションが、Javaの応用分野を広げていて、デスクトップ分野でも(Windowsと無理な競争をせずとも)まだ広げることは可能と考えているフシがある。ウォールストリートの連中はそれがわかっていない、というのがSunの本音だ(実際、今年2月のJava Technology Conferenceでそう言った)。
ただ、Javaの応用分野を広げてくれた組み込みとメインフレームは、実はSunが事業をしてきたサーバ事業とは違う世界だ。Sunが今後もうまくやっていくためには、技術的優位を保った上で、業界での話し合いをリードし、必要な責任を果たしていく必要がある。そういう方向へと動いている最中に、IBMが開発ツールの主導権を握った上で、Java全体への主導権も握りにきている。これはサーバ屋からソフトウェアへの比重を移そうとしていたSunにとって、危急の事態ではないだろうか。
そこへMicrosoftと和解の話が持ち上がれば、これは三国志でいう「天下三分の計」、一度均衡させつつ新たなダイナミズムを求める方向へステップを踏み出せることになる。それには正しくMSと提携して、むしろJavaをきちんと受け入れて使ってもらえる方向にもっていかなければいけない・・・それが今回の提携には含まれていそうに感じる。
しかし、あのバカでかい会社はそうそう簡単に思惑にはのらないだろう。
私が気になるのはだから、IBMの動きである。

***

もう一つ、個人的事情から気になる会社。それまでSunと仲良くやりつつ、Microsoftとも適度につかず離れずで過ごし、今年は赤字を返上することが出来たアップル・コンピュータ。
いや、この会社の動きが気になるんじゃない。SunとMSの提携となれば、Mac OS Xの持っていた「UNIXをベースにしつつ、オープンソフトもJavaもMS Officeも全て1台で扱えて、サーバもクライアントも可能な唯一のプラットフォーム」という位置づけが、揺らいでいく可能性が出てくるから。
iPodが好調だそうだが、その先はどうなっているんだろう。何より、私はMac OS Xをなかなか気に入ってるので、これはもっとちゃんと離陸させてほしいのだ。埋もれず、きちんと羽ばたいてくれぇ。

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