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2004.05.16

川端賞受賞作、やっと読んだ

新潮6月号(100周年記念号)、たくさんのエッセイと創作が載っていて、年表もあって、しかもみんな短いからぱらぱら読んでいけるんで、買われた皆さんはそれぞれ「なんだかお得」と思ってるんじゃなかろうか。

本屋大賞・川端賞」で触れた、川端康成文学賞受賞作、絲山秋子「袋小路の男」。初出は群像、この100周年記念号に載録。やっと読んだ。
12年間、高校生から社会人になっても、一人の男を思い続ける「私」の、告白調の短編。
高校生のくせに私服なもんで、ジャズバーに出入りする「私」は、そこで「あなた」に出会う。相手にされなくて、大学に入ってから他の男とつきあって、卒業後は大阪に行って、それでも忘れたことはなく、でも、「あなた」とは顔を合わせなかった。結婚式のために戻ってきた東京で偶然出会う。「あなた」はあのジャズバーで働きながら、作家を目指しているという。昔と変わらぬ無謀さに心が踊り…
いや、短い作品です、直接読みましょう。実りのうすい恋とか、純愛と呼べるけれど少し違うのかなとか、こんな「あなた」に12年間も…などいろんな感想が出るだろう。ただ、感涙必至のストレートアヘッドな純愛小説よりも、「だめんずウォーカー」よりも、はるかに様々なことを感じさせてくれるはず。

ぷっつり静かに終わるラストがとてもよい。
そうして、私が思い出したのは、作者が昨年の新潮で書いた長い「海の仙人」(芥川賞候補になったが、綿谷りさと金原ひとみのダブル受賞となった)。
最初、ファンタジーなる無益で無害なわけわからん仙人が出てくるところから、話が立ち上がる。主人公の男は宝くじで一等賞があたってしまい、会社をやめて、海に引っ込んで暮らしている。家なのに砂を敷く、変わった暮らし。そこにファンタジーが現れて、居候となる。
こちらも、主人公の男と、職場で知り合った女性が出てくる。主人公が宝くじに当たった事を相談した唯一の人。単なる知人から友人になり(女は主人公を好いている)、だが二人は真っ当に向き合わない。そこに、元職場の人間やら、この街の漁師やらも出てくる。そうして、女が男に初めて向き合うべく、駆け寄るところで終わる。
これもおもしろかった。けれど、いくつかある話の軸が並列に配置されてしまい、いまひとつ響き合ってこないようなもどかしさがあった。作品の長さのせいというより、次から次へと沸き立つように並べていったためなのかもしれない、有機的な感じがあまりしてこなかった。
「袋小路の男」は短編、しかも告白調の自在な文体。そこには、それまでのいくつかの作品で描かれた、肉体関係を伴わない人同士の思いが、結晶として宿っている趣き。たいへん見事。

蛇足ながら、川端賞の選評が掲載されている。小川国夫の選評が、作品に響き合う美しいもの。これが作品を一番よく紹介しているかもしれない。

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