アフタヌーン2004年9月号~2005年2月号
さて、2004年もあとわずか。
やっとアフタヌーンだ。
7月25日発売の9月号から、12月25日発売の翌年2月号まで、半年分を一気に。
今年後半の話題はなんといっても、単行本2冊一挙刊行が話題になった岩明均「ヒストリエ」だろう。
これだけはまとまっていなくても10/25、10/26、11/28と3回、扱っている。
9月号までを単行本2冊に収録。10~11月号は休載とし、12月号から連載を再開。奴隷として買い手のついたエウメヌス。邸を出て行くときの12月号の慟哭は、港でエウメヌスを見送るカロン(エウメヌスが邸の子として育てられた頃の付き人、奴隷にされてからは同室)の、1月号の涙でさらに衝撃が広がる。こういう心理を描かせると、岩明氏は天下一品だねぇ。
2月号からは船の中。非常にあやしい買い手と、妙にチンチクリンの服を着ている売られた先の奴隷達。妙な気配を嗅ぎ取っているエウメネスを待ち構えていたのは、奴隷達の反乱だった…あとはもう、本誌を読んでちょーだい。武力騒ぎは起きないのに、ざっくりとした冷たい描写。またも岩明節。
この息の長い連載の開花をきちんと待ったアフタヌーンは、ぜひ連載を最後まで、責任を持ってまっとうしていただきたい。
というわけで、やっと、はじとみさんのトラックバックにお返しいたします。
さて、連載の最中になんとなくテンションのアップダウンがあるものだが、不思議に話のつなぎの回さえもゆるみに見えないひぐちアサ「おおきく振りかぶって」。
おもしろい、ほんとにおもしろい。スポーツが苦手な私(スポーツマンガは読むけど)がいうんだから、まちがいない。(なんだそりゃ?)
話の筋だけおえば、今年の下半期は敵の試合観戦、主将決定を経て、夏の大会の抽選へと話は進み、地区大会優勝候補と当たってしまう。そこで「勝ちにいく」と笑顔でひかない監督。そして、ハードな練習を楽しくこなす工夫、イメージトレーニング、応援団の結成、埼玉県地区大会の開催へと続いていく。
まぁ当たり前。じゃ、何がそんなにおもしろいのか?
情けないヒーローを主人公にするというより、群像劇になっているのだ。女性監督のモモカン、顧問の先生、キャッチャーの阿部、ピッチャーの三橋、キャラの立っている運動神経抜群の田島だけじゃない。チームメイトそれぞれの性格に焦点がきっちりあっている。人数の少ない弱小高校チームの各人、彼ら入部直後は知らない者同士が、互いを知り、いつの間にか役割分担をはじめて、チームという人格が動き出していく様がきっちり描かれていく。
監督と顧問の先生が繰り出す練習方法も抜群におもしろい。こうした説明などがすべて伏線として生きている。このあたりも魅力のひとつ。
それに、この作品は何かテーマをえぐり出そうとして、強引に方向付けられていないんだ。彼らを通じて、そして他のチームの登場人物の性格や行動も通じて、高校野球という場自体が描き出されていく。
そして見えるのは著者の「野球、好き! 夏の大会、好き! いいこともいやなことも含めて全部!」。
こんなマンガ、おもしろくないはずないでしょ? 2月号なんか、ただの県大会入場と、それをとりまく人々を描いただけ。なのに、こんなにワクワクするんだっ!
いま、マンガの醍醐味をもっともストレートに味わえる作品のひとつ。
作品自体と、作品内作品の同時アニメ化でさらに話題の木尾士目「げんしけん」。
9月号、本作りが進まず大紛糾。作戦会議のあたり、視線がうまいね。10~11月号、出来上がった本でコミフェス突入。ハラグーロの後始末をしつつ、色仕掛け(?)で完売。へたれの笹原会長、冬の申込はせず…。
12月号、爆乳コスプレ大野vsちんちくりん隠れオタク荻上の爆弾を抱えたまま、学園祭突入。この荻上、連載当初の笹原の「ぼくに足りないのは覚悟だ」というテーマにも直結してる。こういう人って、むしろ1980年代の第1次オタク時代に多かったように思うんだが、どーだろう。いまはどーなんだろー。
だから逆に1月号はポイント高し。爽やかヴィジュアル系なのに高密度オタクの高坂と付き合ってる咲が、オタクライフに徐々に馴染んできたことに対する笹原の思いに触れている。「針のムシロは俺のほうか」といった、こういう機微を描けるのが、この作品のいいところ。
2月号はもちろん冬のコミフェスで、意固地になって「コミフェス行きません」宣言をした荻上は、見事にげんしんけんのメンバーに見つかって逃走してしまう…まぁ予定調和でイマイチなんですが、荻上をどう動かしていくかは今後も注目。
続いて、第1部が完結した作品。
滝沢麻耶「リンガ・フランカ」。これは10/26でも触れた。少々最後を急ぎすぎたんじゃないかな。
読んでいておもしろかった。人によっては、肝心のお笑いシーンが少ない、そこでほんとにおもしろい笑いのネタを見せてもらいたい、というかもしれん。でもこれ、お笑いマンガじゃないんだよな、お笑いを作る人のねじれ(いたさとはいわない)なんだよな。それは伝わったからこそ、最後をもう一踏ん張りすれば、もっといい話になったんじゃないかな。
ところで、単行本はどうなるんでしょうね。
あと、内藤曜ノ介「ラヂオ・ヘッド」。うーん…いや、おもしろいにはおもしろかったんですけど。最後まで既視感が強い作品という印象も残った。もう一度ゆっくり読み返してみるか。こちらは単行本、1/21発売だそうだ。
逆に連載再開の平本アキラ「俺と悪魔のブルース」。監修は永井“ホトケ”隆。単行本第1巻が1/21に発売。2004年はブルース漫画の年でもありました(←モーニングの連載のことを言っている)。
これもいよいよもって話が動き出した。黒い絵柄が禍々しいドロリとした空気で、なんともいえない。
それから、新連載でひとつ。風呂前有「ぺし」。小学校低学年の、楽しいんだか楽しくないんだかわかんないあの頃を、描いたもの。ちょっと大人の思惑が入ってないか? でも、もうちょっと注目されてもいいと思うけど。
上半期に注目を持って触れたけど、うーん…となってきてるのが瀬尾浩史「アキバ署!」。
隔月連載なので、まだ4回分(もっとも掲載ページは多い)。警察ものだからって妙に社会性を意識せず、もっと暴走していいんじゃないかな。
田中ユキ「神社のススメ」は単行本第1巻発売中。うーん…やっぱりラブコメですか。いまのところ、安定した王道を進んでいて、まぁつまんないわけじゃなし、人気はありそうに思うけど、この方はもっと深いところまで行ける方ですよ、それまでの作品を見てる限り。
ここではあえてその力を、作品の安定にふっているように見える。ある意味、「はるか17」で人気が出ている山崎さやかみたいな感じか。
それはそれでいいけど、もうちょっと妙さ加減をちらちら見せてくれていいんじゃないかな。あまりにわかりやすいところが、この作者の持ち味を抑えかねない展開で、ちょっと気になってる。
隔月連載が楽しみな漆原友紀「蟲師」、11/28にも触れたけど、この方にはブラックジャック路線とは異なる、永遠のマンネリを目指してもらいたいです(もちろんいい意味で)。
9月号で読み切り作品「岬でバスを降りた人」が掲載された。「蟲師」の登場人物達よりも感情移入しやすいのは、単に現代の普通の生活を描いているからじゃない。彼らの生活背景がしっかりと見えるからだ。
実は今年の連載分の「蟲師」は、それが徐々に薄らいできているように感じることがあった。もともとそういうところに踏み込まなかった当初の話だが、ギンコが通り過ぎる人に焦点が当たるようになってきた昨今、このあたりはもう一歩深まるはず。きっと作者はその山を越える手がかりをつかみつつあると思う。がんばれ。2月号などを読むと、1回読み切りにこだわらず、少し連続したものを一度読んでみたいと思ったりもするな。
そういうところにあんまりこだわらなくても読めるファントム漫画、熊倉隆敏「もっけ」。
こちらも隔月の楽しみ。地味な民族学的ネタも含めて、一直線に進むのが意外に難しい道を、そのまま進んでいる。
意外といっては失礼だが、なかなか読みでが出てきたのはかとりまさる・作、安藤慈朗・画の「しおんの王」。
最初はトラウマに女流将棋をからめただけかと思っていたが、しおんだけでなく、周辺の人々の強さに焦点が当たり出して、奥行きが出てきた。コミックビームの「エマ」のように成長するといいな。
地味な、じみ~~~な新連載は、豊田徹也「under current」。おばさんの助けで風呂屋を営む関口かなえ。なかよく平和に暮らしていた婿養子のダンナが失踪してはや2ヶ月、というところから話は立ち上がる。結局風呂屋を閉めず、銭湯組合から派遣された堀貴之を迎えてしばらくは継続する決意をする。
その堀、どうも無愛想でよくわからないながらも、なんとなく2ヶ月を経て定着してしまう。また、かなえは買い物の途中で旧友に会い、ダンナの失踪を調査する探偵を紹介される…
話だけ聞くと、なんかテレビドラマみたいだね。だけど、絵が独特。ちょっと谷口ジロー氏を思わせるけれど、谷口氏とは異なる空気感が漂う。現在連載3回目、現在発売中の2月号は休載で、3月号から再開。全10回とのこと。
こういうのが載るのも、アフタヌーンならでは。
安定連載。
芦奈野ひとし「ヨコハマ買い出し紀行」、マッキがバイトに来る昨今。成長しないロボットの人、アルファから見る、マッキの変化。
木村紺「神戸在住」、ついに4年の卒業制作と学園祭での展示、さらに高校時代の友人の結婚式。こちらも時の移ろいを思う。
そういえば、読み切りで「巨娘」も描いていたな。「神戸在住」の静けさでたまるストレスを発散するような書きっぷり…笑えるんだけど、もっとブチ切れるか、切れてる中に妙な繊細さがあるとか、なんかもうひとつポエジーがあるともっとグッド。
他にもとよ田みのる「ラブロマ」などの安定連載がありますが、今年はこのあたりで。
そうそう、忘れるところだった。9月号に広告が出た、アフタヌーンの四季賞受賞作全部入りの単行本「四季賞クロニクル」はどうなったんでしょうか。(このメンツ、見るとびっくりするよ、マンガ好きなら。こんなに人材を輩出していたのかと。)
発売の声を聞かないのだが、出るなら買いますよ>編集部。
それでは皆様、よいお年を!
[付記]
2005.01.29、鳥子さんの記事にトラックバックしました。
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コメント
TBありがとうございました☆
色んなところで、今ならリアルタイムに繋がるという有り難い情報を得て、なんとか12月号は読んだものの、あろう事か、1月号は逃してしまいましたw
やはり、単行本化を待つしかなさそうな気配””
じっと我慢の子します(苦笑)
でも、こちらの記事のおかげで、少し1月号の様子がつかめました。
返す返すもありがとうございます♪
投稿: はじとみ | 2005.01.07 18:05
すご〜く長い記事になってしまい、すみませんでした。丁寧なコメントに感謝!>はじとみさん
1月号は逃してしまいましたか、それじゃぁネタばれになっちゃったわけですね…
単行本はおそらく1年に1冊がいいとこだと思いますけど、私も楽しみです。
投稿: kenken | 2005.01.10 00:40
本当はこの記事を読んだときにコメントをつけたかったんですけどすぐに反応出来なかったのでトラックバックを送ってみました!
初トラックバックです。便利なもんですね。
投稿: 鳥子 | 2005.01.28 02:00
鳥子さん、コメント&トラックバック、どうもです。
トラックバックって、記事同士の連携なので、ちょっと前の記事にも送れて便利ですよね。
豊田氏の「under current」はやっぱり注目ですね。ディテールの細かさがにおう作風。
岩明氏みたいな大変貌を遂げてもおかしくないし(「風子のいる店」から「寄生獣」にいったみたいな)、この路線でいってもいい感じ。
投稿: kenken | 2005.01.29 02:43