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2005.03.19

すばる3月号、新潮3〜4月号から

要約して情報になる文章ばかりに目を通している。ストレスたまるなぁ(仕方ないんだけど)。
少ない時間を寄せ集めて、いとおしんだ時間から。

2月発売の文芸誌、すばる3月号は宮内勝典「焼身」が掲載されていた。9.11以後の世界を考える必然にかられて、若い頃に衝撃を受けた事件を思い出し、その跡を追いかける手記のような小説。いや、これは手記ではない、立派に小説。
1963年、ベトナムの僧侶が焼身自殺により、政府への抗議をした。燃え上がる僧侶の写真は世界中に報道された。私は物心ついた頃に親から話を聞かされたが、それくらい世間一般にも衝撃を与えた事件だった。この名も知られぬ僧侶の足跡を追うことを、長い間忘れていた「私」は、今こそその時だと感じ、妻とともにベトナムに入る。大学の講義がない、夏休みを利用して。
出会い、導かれても、なぜ途中で弾かれてしまう足跡。静かに、しかしはっきりわかるように「私」を尾行する公安。
熱帯のじっとりした湿度と熱を感じさせる文章。公安との化かし合いを縫って、生き残った僧侶達の口からわかる断片。身分の高い高僧とのやりとり、そこからわかる衝撃の言葉。「焼身」のタイトルにふさわしい、不思議な熱さ。
意外なところで監視が強化され、なんとなく気が合う人同士だけでたこつぼ化した世界に住みがちな今こそ、考えるべきことが立ち現れてくる、不思議な小説だ。
逆に、要約できるような結論が得られる小説ではない。でも、結論という情報がなんだというのだ? 結局他人事に流れてしまうような情報は、小説に書くことではない。それにひきかえ、この熱さはじっとり染み込んできて、離れられない。
そういえば昨年の春、やはり笙野頼子「金毘羅」が載ったのも、すばるだったな。

同じ月、新潮3月号は村上春樹の連作「東京綺譚集 I 偶然の旅人」を掲載。1話完結の短編を集中連載するもので、「神の子どもたちはみな踊る」と同じパターンだ。今月の新潮4月号には、第2話が掲載されている。
味わいある短編です。だけど、「神の子どもたちはみな踊る」が連載されていた時の「おぉ、読んだぁ」というような感慨は、今回はまだない、というのが正直な感想。いや、繰り返しますけど、ちゃんとおもしろいんだよ。
ちなみに、新潮3月号には井伊直行「青猫家族輾転録」もあり。まだ読んでいる最中なのだが、楽しんでいる。1990年代を振り返る趣向は、ちょっと長嶋有「パラレル」を思い起こさせるところあり、かな。もちろん、主人公の年代も話の内容もまったく異なる、ただ、50男があえて軽口の文体で進めるところと、直前に置かれた村上春樹の語り口から、春樹以降の作品へのいろんな連想が、あちこちへと広がっていく。
でも、まだ最後まで読んでいないので、面白く読んでますってことだけで。

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第57回読売文学賞が以下の通りに決まりました。 <小説賞>堀江敏幸「河岸忘日抄」、宮内勝典「焼身」    <随筆・紀行賞>河島英昭「イタリア・ユダヤ人の風景」   <評論・伝記賞>筒井清忠「西條八十」   <戯曲・シナリオ賞>菱田信也「パウダア」 <...... [続きを読む]

受信: 2006.02.02 21:41

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