盤渉調調子
盤渉調調子とは、雅楽にある六調子のうち、盤渉調の曲を演奏する際に、当曲の前に演奏する曲。
その場を、盤渉調を演奏するにふさわしい空気にする曲。
雅楽の調は一応六調子に分類される。
双調・・・・・・基音はg、五行の木、春
黄鐘調・・・・・基音はa、五行の火、夏
平調・・・・・・基音はe、五行の金、秋
盤渉調・・・・・基音はh、五行の水、冬
壱越調・・・・・基音はd、五行の土、土用
太食調・・・・・基音はe、特に五行の割り当てなし
たとえば源氏物語で有名な青海波は盤渉調の曲であり、盤渉調調子で場を調えてから、演奏される。
調子を耳にすると、驚く。
パイプオルガンよりも金属的な笙の音色からはじまり、それがカノンのように折り重なっていく。と、民俗的な音色の篳篥が強烈な旋律を奏で、それもカノンのように折り重なる。そこへ笛と打ち物が入り…
この間、それぞれの楽器は、西欧の音楽でいう協和音ばかりを鳴らすわけではない。しかも、各楽器ごとの様子の、なんと異なること。時と空間を超越したような響きの笙と、場合によっては泥臭くさえ聞こえる篳篥、遠鳴りのような笛は、それぞれを耳にする限り、かみ合っている要素がないようにさえ聞こえる。
それなのに一斉に鳴り響いた途端、森が、風が、草が、その季節のいきとし生けるものの音がする。
この頃の音楽は、人の感情を表す音楽ではない。
それはもっとずっと後世の話。
この頃の音楽は、神や何か人を超えた存在に捧げることが多かったはずだ。
雅楽の調子は、振動を通じて場を浄め、音の感じ方までも変える。
音で感情が生起されるのではなく、感情のあり方を規定してしまうような音だ。
だからだろうか、これを聴くと、ただ完璧な音組織、としか言い様がない。
初めて耳にした瞬間の、背筋を貫き、肌が粟立つ感覚は、おそらく一生忘れられない。
西欧でも、モーツァルトの頃までは、音楽が感情を表すのではない要素が残っていた。
だけど、調子の強烈さは、おそらく唯一無二だろう。
特に盤渉調の笙では、ルネッサンス後期かバロック初期さえ想起させるような、でも洋楽の音構築とはまったく違う響きに出会う。
これが古代に鳴り響いていたことは、ちょっとクラクラして、ショッキングでさえある。
というわけで、最初の一曲一話は、音楽がいまのような受け取られ方をする前の、完璧で不思議な響きに捧げる。
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コメント
「一曲一話」ネーミングが、ステキですね。以後楽しみにしています。
文章に付録があって、音楽がつまり音がついているといいなあと、思いました。
欲張りかしら。
クリックすると、「一曲」の音楽を聞きながら、文章を読む。
読者は、このページを開く時は、あらかじめ、コーヒー、紅茶など、飲み物を脇において、ホッと一息入れながら、クリックするんです。
夜だったり、朝だったり、日曜だったり、ステキな文章と音楽とお茶が、三ついっしょに楽しめる特別のページになること、請け合いです。
さらに、ステキなカット(絵)がついていれば、もう完璧ですね。
欲張りな提案でした。
投稿: 石川たかね | 2005.04.24 23:57
石川たかね様、コメントありがとうございます。
音がついていると確かにいいですね…かといって、通常の音源は著作権の問題もありますし…
カットの準備も毎号できるかは難しいところですが、どこかでまとめを作る際には、ぜひ入れたいですね。
すぐにできるかどうかはともかく、わくわくするようなご提案ですね。ありがとうございました。
投稿: kenken | 2005.04.25 00:33