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2005.06.17

名指揮者ジュリーニ氏、逝く

イタリア出身の名指揮者、カルロ・マリア・ジュリーニ氏、逝去。91歳。
YOMIURI ONLINEの記事はこちら(6/16)
アサヒ・コムはロイター発の記事(6/16)。

オペラ座の音楽監督を経て大きく飛躍、一流オーケストラにも多数客演。特に要請を受けてロサンジェルス・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督を引き受けて、著しくレベルが上がっていったと言われる。
レパートリーを無理に広げず、たとえばベートーヴェンの交響曲全集にも清潔なアーティキュレーションと、ゆったりしたテンポをベースに、楽団員から最良のフォルティッシモを引き出して見せる。誇張もなく、音の形が明確になる演奏は、非常に正確な造形ゆえの迫力があった。
今年に入って、引退する前の録音がまとめてリリースされた矢先だった。

***

私はジュリーニ氏の全盛期に、どんどん古楽に入っていった。
だけど、もちろん聞いていた。
ヨッフム氏やジュリーニ氏のような指揮者がいて、西欧の音楽の強い芯を体現する人がいたからこそ、自分は響きのアヴァンギャルドとしての古楽に安心して走れるなどと生意気なことを感じていた面も、少しはあったのかもしれない。

その古楽奏法は、アッバード氏(前ベルリン・フィル音楽監督)が意識するようになり、アーノンクール氏がウィーン・フィルで体現して、一般にも受け入れられるようになる。サイモン・ラトル氏(現ベルリン・フィル音楽監督)のように、通常のオーケストラも古楽器オーケストラも指揮する人が出てくるようになった(もっともラトル氏は変わりものであり、例外的存在に近いけど)。

20世紀初頭から発展しているように感じてきたオーケストラ音楽は、第2次大戦が終了して1960年代に入ると世界経済の安定から、すばらしい爛熟を迎えた。その頂点にいたのがカラヤンやベームだろう。
いま、第2次大戦直後〜1960年代の名演奏に触れると、廃虚から立ち直り、再び音楽を出来る喜びに満ちあふれているように感じる。

そんな演奏方法を、単に繰り返して受け継げばいいわけではない。それでは単なる伝承として衰退する一方だ。その人ならではのsomethingがなければ、わざわざ演奏する意味がない。
それに、演奏家はみな自らの存在を賭けて「これこそが、この曲を体現する響きだ」と信じる音を奏でる。1960年代に芽を出した古楽器による演奏は、1980年代にはオリジナルの響きを追い求めてモーツァルトやベートーヴェン、シューベルト以降を射程に入れ始めていた。
いや、正しい響きを求めているわけではない。まるでその曲が今書かれて生まれてきたような新鮮さとまっとうさをもって響くことをこそ、求めている。その動きが、カラヤン時代の「楽譜原典主義」を経て、「響きの原点」にまで立ち戻っていったのだ。
スター指揮者が減っていく中、オーケストラはいまひとつ元気がない時代だった、というのは大げさかもしれない。でも、ベルリン・フィルを、大規模なまま室内楽的と言えるほど緻密なアンサンブルに練り上げたアッバード氏は、前任者のカラヤンと常に比べられた。気の毒としか言いようがなかった。

ジュリーニ氏は、1980年代以降のオーケストラにとって難しい時代に、実直な音楽を響かせ続けた。しかも、ヨーロッパの中心からやや外れた地点を中心に。
それは朝比奈隆氏のような名指揮者も同じだろう。
中央が衰えるとき、周縁が支える。そのうちに、中央からも新たな動きが出てくる。
ジュリーニ氏は、ヨーロッパに堆積している響きから最上のものを、アメリカ大陸に伝えていった。
ドイツからアメリカに渡ったクルト・マズア氏もそうだろう。
一方、ボストン交響楽団の音楽監督を辞めて、ウィーン国立歌劇場音楽監督になった小沢征爾氏は、ヨーロッパ中央に新たな動きをもたらしている。

それはともかく。
堅実で立派な響きを思い出しつつ。
黙祷。

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