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2005.07.11

串田孫一氏とフランス・ブリュッヘン

ふ〜、なんだかんだとこっちに回す時間が少なくて、書きたいことが積み上がっていく…

と思っていたら、串田孫一氏の訃報(アサヒ・コム、7/8)。
個人的には、クロード・シモン氏の訃報(アサヒ・コム、7/9)よりも記憶を触発されてしまう。

以前、カテゴリー「一曲一話」において、「甘い衝撃、またはFlauto Dolce」を書いた。コレルリのヴァイオリン・ソナタ「ラ・フォリア」をリコーダー編曲した版(18世紀当時存在していた)を、フランス・ブリュッヘンで耳にした衝撃を書いた。その盤(LPレコードだよ)のタイトルは「涙のパヴァーヌ」という。

このLPには串田孫一氏のエッセイが収録されていた。氏は自然、登山、美、音楽などのエッセイで非常に有名だったが、このレコードでは、リコーダーを熱心に吹いていた頃の思い出が記されていた。
仲間と一緒にリコーダー・アンサンブルの練習に励んだこと。リコーダー音楽の盤は数が少なく、すべてを買えたこと。日本初演だと言いながら人前で演奏する楽しみ。やがて盤も増えていき、買い切れなくなった上に、もはや自分達では太刀打ちできないような名演奏が聴かれるようにもなったこと。そして、自分も仲間も仕事が忙しくなっていき、たまに連絡をとると笛に黴が生えているといった話を聞くこと…
とっつきやすいが、美しい音楽にするのは難しいリコーダーを、楽しみつつも真面目に取り組み、プロの演奏に嫉妬を覚えたりする一方で、若い人々にも広く知られるようになるに連れて自分が取り残されたような思い。
「自分だけの名所(←アイドルでもなんでも自分の好きな人や物事)が、他人に広く知られていく」時に感じるような、以前から知り抜いていたことを嬉しく思う気持ち、広く知られることを喜ぶ気持ち、一方でみんなのものになっていくことをなんとなく残念に思う気持ち…さらに、仕事が多忙になるに連れて、最大の楽しみから遠ざかっていくことの哀しみ…他の微妙な感情も含めた胸の波紋が広がっていく様子をまざまざと浮かび上がらせる、名篇だった。
音楽学者、永田仁の手堅い解説(楽譜の出版社と番号まで書いてあった!)とともに、いやそれ以上に不思議に記憶に残る文だった。

合掌。

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