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2005.08.27

アイデア豊かだったモーグ博士

昨日の記事「遅ればせながら、モーグ博士のご冥福を祈る」で触れ損ねたこと。

モーグ博士の貢献にはシンセサイザーという楽器の構成を確定させたことだけではない。

鍵盤楽器にしてしまうと、音程は定められた高さを階段状に辿ることしかできない。つまり、ギターやヴァイオリン、チェロのように自由な音程で奏することは不可能だ。
そこで、鍵盤を押しながら、脇のホイールを回すことで、音程やフィルターなどを制御できるようにした(ホイールの電圧をVCOに送れば音程の制御になるし、VCFに送れば音色の制御になる)。特にピッチベンドが可能になったことで、ギターのように色気のある奏法が可能になった。
また、リボンコントローラーといい、指を触れたままスライドさせることで、音程を上下させる機構も開発した。ホイールだけでなく、こんなコントローラーも思いついてしまうところが楽しい。特にギターのようなスタイルの小型キーボードに取り付けられ、鍵盤奏者は椅子を離れて演奏することが可能になった。
こうして演奏しながらリアルタイムに音を変化させる自然な機構を用意し、ともすれば単調になりがちなシンセサイザーの音を表現豊かな楽器へと積極的に変化させた、ともいえる。
オンドゥ・マルトゥノにも似たような機構はある。ただし、モーグ博士は音程も音色も音量もすべて電圧で制御するヴィジョンを実現していくにつれて、まるで楽器の必然のように生み出してしまうところがすてきだ。

(ちなみにオンドゥ・マルトゥノは、20世紀前半のフランスで生まれた電子楽器である。時期はテルミンより遅かったものの、鍵盤で制御し、スピーカに工夫を凝らして様々な音色を出せる。また、鍵盤だけでなく、弦楽器のように音程を自由にとることができるコントローラーも備える。メシアンらが用いたことで、フランス20世紀音楽の重要な楽器となった。発明当時は真空管製だったが、戦後のトランジスタ化、IC化を経ている。もちろん、楽器としての基本構造は変化していない。)

シンセサイザーの普及には、音色だけでなく演奏しやすさも重要だったはずだ。モーグ博士のアイデアはここにも生きている。いかに音楽そのものを愛し、ミュージシャンの表現領域を広げることに心を砕いていたかがよくわかる。
そんな博士が晩年、テルミンに注目したのは、簡素なものにこそ、表現を考えるヒントがある証だったのかもしれない。

[注]昨日触れたリリコン(Lyricon)とは、Computone社が開発した、息によるシンセサイザーのコントローラー。木管楽器(ソプラノサックス)によく似たキーの出力をVCOにつないで音程を制御し、息の量を感知するセンサーの出力をVCFとVCAにつないで音色と音量を制御することで、管楽器らしい表現を可能にする。
(厳密には、モーグ・シンセ等に接続するタイプの楽器はLyricon Driverという。Computone社は最初、管楽器により適した音作りが可能な、音源とコントローラーが一体化されたLyricon I及びLyricon IIを開発したが、他のシンセを制御したいという要求に応えてLyricon Driverを製作。しかし、事業としては結局あまり成功しなかったらしい。日本ではスクェアの伊藤たけしらの使用でとても有名になったけれど、電子管楽器を事業に結びつけることが出来たのは、YAMAHAとAKAIだった。)

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