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2005.08.26

遅ればせながら、モーグ博士のご冥福を祈る

文学関連ニュース。今年の谷崎賞は町田康「告白」および山田詠美「風味絶佳」に決定。(報道多数、たとえばアサヒ・コム8/24の記事。)
というめでたい話はあるのだが、その「告白」。まだ積ん読に入ってて、手を付けてない…

それはさておき、驚きのニュース。
8/21、ロバート・モーグ博士が亡くなられた。−−−アサヒ・コム(8/23)

シンセサイザーに興味を持ったことがある者、使ったことがある者にとって、モーグ博士の名は(機器を直接使ったことがなくても)必ず耳にした。1960年代にアナログ・シンセサイザーの基礎を確定し、普及させた方だ。
電子的な発信音を制御して楽器にする上で、VCO(発信器)→VCF(フィルター)→VCA(アンプ)という音操作の制御フローを確定・普及させたことはもちろん素晴らしい。
それ以上に、VCFやVCAにエンヴェロープ・ジェネレーター(Envelope Generator)を通すことで、時間経過に伴う音色や音量の変化を行えるようにして、それまでの電子楽器では制御しにくかった音楽的な音を合成できるようにしたことも、大きな功績だ。

たとえば、トランペットもヴァイオリンも、波形はノコギリ波を使う。同じ波形なのになぜ異なる音になるか。もちろんフィルターによって、いらない波形をどれくらい削るかも異なるのだが、それ以上に音が時間経過とともにどういう変化をするかが重要になる。
トランペットは発音の瞬間に唇がプルプルと震え、それが管を通って楽器としての響きになる。つまり、最初はちょっと詰まったような複雑な振動が来てから、安定した管の鳴る音がやってくる。それを擬音でいえば「プワッ」というわけ。
ヴァイオインは弓が弦をこすり、ちょっと雑音の混じった音が一瞬響いた直後に、木製の胴体が共鳴して楽器の音になる。
ちなみに、テープに楽器の音を記録しておいて、音が鳴り出す瞬間をあえて省いて聞くと、一瞬何の楽器が鳴っているのかわからないことが多々ある。楽器の音は、時間経過による音色や音量の特徴によって認識されている、といえるくらいだ。(おそらく人間の耳のこうした特性は、言葉の聞き分けにも深く関係しているはずだ。)
楽器が発音する瞬間に大きな波形の変化があって、その後に安定した楽音になっていく様は、音響学ではよく知られていた。しかし、演奏家や一般聴衆にも目に見える形で提示されるようになったのは、モーグ博士のシンセサイザーにより、エンヴェロープ・ジェネレータ制御が普及したからだ。

シンセサイザーという波形合成装置を、演奏家が扱いやすい「楽器」にすることに成功したことが、モーグ・シンセサイザーの普及した理由だろう。
当初はタンス状の大きなラックに、VCOからVCF、VCAにEnvelope Generatorなどをケーブルで結線し、手前にある鍵盤で弾く、システム型だった。ウェンディや冨田勲らのクラシック音楽編曲は、こうしたシステム型のシンセを使った多重録音で生み出されたのは有名。
ここから楽器としてのエッセンスを取り出したのがMini Moog。コンパクトでエレキピアノの上に乗り、弾きながらボリュームツマミを回して音色を変化できるこの楽器は、枚挙にいとまがないほど広い分野のミュージシャンに愛された。

弾いてみればわかる。Mini Moogはとても音楽的な音がする。音色を決定する波形やフィルターの特徴や仕様、それを制御するボリュームに至るまで、回路設計も部品の選択も、楽音としてよい音が出るような配慮がなされていて、妥協がない。音をオシロスコープで見ればずいぶん雑音を含んでいるのだが、非常に鋭く効くフィルターで雑音成分も制御できるので、上記のような音の複雑な変化を表現しやすい。その分、音程がやや不安定な面もあったが、モーグ博士がいかに音楽を愛しているかがわかる、粘っこい音がする。
これをリリコン(最初の管楽器型シンセサイザー)に接続し、ノコギリ波で初めて息を吹き込んだ瞬間は、忘れられない。息でフィルターを操作するたびに「プワッ、プワッ」と実に粘っこい金管楽器の音が流れ出したのだ。太く豊かな音は、他の音に埋もれない。
「こんなに音楽的な音がするのか!」とびっくりした。
あまりの音程の不安定さに結局手放してしまったが、あの音だけは何度でも蘇ってくる。

モーグ・ミュージック社は諸般の事情で倒産・閉鎖。(私がリリコンでMini Moogを最初に試したのは、もうとっくに倒産した後だった。)
しかし、Oberheim(Weather Reportのキーボード奏者Josef Zawinulなどで有名)、Prophet(日本ではYMO時代の坂本龍一でひどく有名)といった1980年代前半まで続いたアナログ・シンセ、さらにYAMAHA DX7以降のデジタル・シンセ時代、サンプラー時代になってからも、モーグ・シンセは音作りのスタンダードとして何度もリファレンスされてきている。何しろ、モーグ・シンセを修理できる技術者が重宝されるくらいなのだから。
晩年はテルミンの復興に力を尽くしたりして、電子音楽そのものを見守るような活動をしてきた。
この方がいなければ、ポピュラー音楽が違う姿になっていた可能性さえある。

音を愛するものとして、深く深くご冥福を祈る。

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コメント

初めまして。Moog、Lyriconで検索してやってまいりました。
当blogでもモーグ博士のエントリーを書いていましたので(関連性は薄いかも知れませんが)、トラバさせて戴きました。
Mini Moogはレス・ポール+Marshallに対抗出来る唯一のシンセですね。

投稿: D-O | 2006.04.30 10:47

当ブログ管理人のkenkenです。
ウィンドシンセに思い入れのある方からのコメント、ありがとうございます。
ただ、トラックバックが反映されていないようです。
お手数ですが、この記事のトラックバックURLを再度ご確認の上、もう一度トラバしていただけると助かります。
よろしくお願いいたします。

投稿: Studio KenKen | 2006.04.30 14:06

>>Studio KenKenさま

おそれいります。
何度かためしてみましたが、反映されないようです。
すみませんでした。

http://wackygroove.at.webry.info/200509/article_1.html

投稿: D-O | 2006.05.22 10:27

何度もおそれいります。
今度は私のほうから、トラックバックをかけてみました。
トラックバック先の記事にもコメントいたします。

投稿: Studio KenKen | 2006.05.22 12:31

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受信: 2006.05.22 13:08

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