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2006.01.18

絲山秋子氏、芥川賞

2005年下半期の芥川賞は絲山秋子「沖で待つ」、直木賞は東野圭吾「容疑者Xの献身」

ニュースは、アサヒ・コムがこちら、YOMIURI ONLINEがこちら(ともに1/17)。

両方で触れられているのは、絲山秋子氏。

アサヒの記事は、

メーカー同期入社の男女が主人公。どちらかが先に死んだら、生き残った者が、死者の秘密を守るためにパソコンのハードディスクを壊す約束をする。芥川賞選考委員の池澤夏樹さんは「仕事の現場の雰囲気を細かく書いて、男女の同僚としての友情という小説で書きにくいテーマを、上手に過不足なく書き切った」と語った

というもの。
いつぞやのモブ・ノリオ氏のような強引な解釈もなくて、池澤夏樹氏の談話を引用した、穏当な紹介。

一方、YOMIURIの記事では、

バブル時代に総合職で入社した女性が、社会の中でもまれ、成長していく様子を描いた短編

とまとめている(このあと、絲山氏の経歴と結びつける記述もある)。
これはなかなかすごい…確かに作者の経歴と仕事ぶりをうかがわせるような作品ではあるが、内容の焦点はそこじゃないだろう?
と、つっこんでしまいました。

***

芥川賞の候補作は以下のごとし(作者あいうえお順)。

絲山秋子「沖で待つ」
伊藤たかみ「ボギー、愛しているか」
佐川光晴「銀色の翼」
清水博子「Vanity」
西村賢太「どうで死ぬ身の一踊り」
松尾スズキ「クワイエットルームにようこそ」

ん〜、今回ちゃんと読んでいたのは、絲山氏と清水氏のもの。
「沖で待つ」は、それまでの氏の作品とはちょっと異質かもしれない。現実に誰もが見えることを描いてきたのに対して、この作品では死んだ後の友人と会話するシーンにはさまれている。
しかし、恋愛感情抜きで成り立つ男女の会話と、ハードディスクを壊すシーンが実に生々しく、それがあってこその冒頭と末尾なのだとわかる。内容はそれまでの作品からストレートに伸びて、むしろリーチが長くなったような印象がある。
まだ単行本収録されていないので、おそらく明日は大きな書店に文學界9月号が平積みされるんだろう。

***

忙しいというより、小説が身体に入ってこない時期に発表されたものばかりだった。今なら読めるな。未読で気になっているのは、佐川氏と、西村氏。

まぁ、賞というのは基本的にはお祭りなのだから、いろんな本を皆で読みませうというのが当ブログのスタンス。
というわけで、候補作も含めて多くの本が読まれることも祈念しつつも。
絲山氏は個人的に読み応えを感じてきた作家なので、今回は素直にうれしい。
受賞されたお二人へ、おめでとうございます。

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