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2006.08.07

すばらしい蛮勇

ん〜。あっついですな〜。バテ気味。文芸誌も読んでないわけじゃないが、カーッと感想を書く気力に至らず。

そういえば、古川日出男氏の三島賞受賞は知っていたが、ちゃんと読んでこなかった。
受賞作を手に取ってパラパラとめくりつつ、その前に(昨年の東京国際ブックフェアで文藝春秋が一押しにし、昨年の「このミス」で入賞した)「ベルカ、吠えないのか?」を読んでみた(つい時期を逸してしまったし)。

***

犬史観で語る20世紀の歴史である。
つまり、軍用犬の血統を通じて(作者が追いかけて犬に語らせながら)、20世紀後半を追いかけていく。
そこには2次大戦が終わり、戦勝国と敗戦国がある。犬の所有者の交替が起き、交配も起きる。それは戦争や放浪の度に起きる。そうして朝鮮戦争、ソ連の高揚、ベトナムとアフガン、ソ連の解体とロシアン・マフィアの世界へ、一気に駆け抜ける(日本のヤクザも交えて)。

確かに面白かったけど、いわゆるリアルで重厚なストーリー、あるいは奇抜な展開、といったことを期待して読む向きからは「つまらん!」と言われるかもしれない。
ここで読むべきは、現在形を多用する圧倒的な語りだろう。
犬に語らせることは不可能だ。そんなことは百も承知で、作者は失踪する文体から、犬と並んで走り出し、犬に呼びかけ、書き留める。
しかし、この語りに入っていけない人もいるかもしれない。意外に人を選ぶような気がする。

血筋と歴史というテーマなら、ガルシア=マルケス「百年の孤独」という世紀の傑作がある。マジック・リアリズムと名付けられることになる、既存の枠を突破した記述と構成による傑作。あれを連想しないわけにはいかない。
(一応こんなインタビューもあり。)

私個人の感想を言えば、比較するとか、匹敵するかどうかというのは、ちょっと違うと思う。
連想すればじゅうぶんで、比較されるものではないだろう。
だって、日本語によるフィクションの力を広げることに集中しているのだから。(その自負は巻頭にある。見ればわかります。)

いずれにせよ、すばらしい蛮勇を持った作品。

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