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2006.11.03

巨星落つ(白川静氏の訃報)

人はいつかは死ぬ。逃れることの出来ない宿命だ。
でも、この方は100歳を超えた現役の学者であり続けるような気がしていた。
漢字学者、白川静氏である。享年96歳。

記事はたとえばこちら(アサヒ・コム、11/2)や、こちら(YOMIURI ONLINE、11/1)。
また、アサヒ・コムの解説記事(11/2)、YOMIURI ONLINEの解説記事(11/2)もあり。

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立命館大学で長らく研究を続け、一般書を出してこなかったため、世に知られるのは遅かった。特に1996年の「字統」に始まる「字訓」、「字通」の字書三部作で広く知られるようになる。漢字の発端が持つ呪術性と、その歴史的展開について、明晰な理性の光から照らした希有の書物である。
また「孔子伝」が諸星大二郎、酒見賢一の著作をインスパイアしたと言われることでも有名。

学閥とはまったく別個に研究を続け、考古学、漢字学、日本古代歌謡などの間を横断する内容はまったく独特。漢字の起源を、その文化的背景(つまり当時行われてたと思われる祭祀政治や宗教・神話など)も含めて説き起こし、漢字を軸にした文化圏についてとことん考察していったその全貌は、専門家でない私などにはとても語れるものではない。しかし、その著作の博学多識、流れるような名調子に、釘付けになってしまう。
「孔子伝」や研究方法などについて批判されることもあるが、とにかくその著書は魅力に溢れるものばかりであり、一読してまったく損はない。字書三部作で自分の名前の文字について調べてみるだけでも、深く打たれる。

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「漢字を語り出したら止まらない」とよく言われる。
私はその一端を、京都国際文化会館で開かれている「文字講和」で拝聴したことがある。
語り出したら止まらない、なんて生易しいものではなかった。90歳を超えてらっしゃるのに、2時間立ったまま、名調子で語り続ける。休憩後の質問には、たとえくだらない質問であってもその背景をはるかに突き抜けて、文化論に到達する。白川氏よりずっと若い世代ばかりの聴衆が圧倒され続けていた。

おそるべきは、話していくうち「過去にこのように書きましたが、最近の研究により、わかったことは…」と何度か触れていったこと。自らの研究内容をより正確に、精密に、向上させようとしていく。
たぶん字書三部作のすべてをリライトするのも目標だったろうに。

学問のためにすべてを捧げた巨大な魂へ、心からのご冥福を祈念するものである。
合掌。

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