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2006.12.31

2006年の本や雑誌、雑感

さて、今年の締めくくりに、印象に残った本や雑誌について。
あまり触れなかった話題を中心に。

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文芸関連から。

単独作家としては珍しい国際シンポ(当サイトの記事はこちら、単行本化されてもいる)、カフカ賞受賞が話題になった村上春樹だが、純文学の文芸誌・単行本では、金原ひとみの掲載が目立った年だったと思う。

彼女の、何かが降臨して自動筆記していくような語りは天才的。笙野頼子を連想させるところもあるが、もちろんまったく別の個性。
現代の語彙をがんがん取り入れて、猥雑なくらい音が溢れてくる笙野節は、うるさいように見えて、芯の部分はものすごく静かだ。クラシックの現代音楽のようだ、というと妙な比喩だろうか。
一方、会話や語彙は今の言葉であっても、意外に古典的な文を使う金原節は、透明なように見えて、どこかノイジーだ。音楽でもあるし、環境音でもあるような、濃縮した音。
逆説的なあり方は興味深い。
ただ、金原節は、ずっと読んでると、時々目を離してしまう瞬間がある。うん、私の好みの問題なので、彼女が天才的な語りを続けていることに変わりはないんだけど。
(ちなみに綿矢りさ「夢を与える」は、あちこちで話題になっているものの、未読。)

今年、少し調子を変えた庄野潤三「ワシントンのうた」は、なんだか毎回とても心に残った。
それから、今年目を通した数少ない翻訳本として、スチュアート・ダイベック「僕はマゼランと旅をした」(柴田元幸・訳)も印象に残った。

あと、昨年未読で遅れて読んだ町田康「告白」。じわじわとボディに効いてくる衝撃だった。
近代的意識が芽を出す瞬間の明治を捉えて、自他の境に戸惑い、自分をそのまま出すと拒絶されてしまうように感じる一般人(決して高等遊民ではない)を、史実に分け入って想像・創造している。

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マンガでは、大型連載の完結が目立った。
羽海野チカ「ハチミツとクローバー」、森薫「エマ」、大場つぐみ・作/小畑健「DEATH NOTE」など。

羽海野チカ「ハチミツとクローバー」は、雑誌3つを渡り、6年続いた連載となった。映画化、そしてアニメ第2弾も好評らしいが、そちらは未見。
単行本は10巻にて完結。
下手をすれば安いテレビドラマになりかねないはぐみの大怪我というエピソードを通じて、はぐみと竹本君(彼が元々の話の発端である)の山場を堂々と、切々と描き切った。シノブ兄弟の敵にまで幸福な一面を探し出してから、(第2巻とタイトルに直接関わる)ラストのエピソードは、大の大人でも涙を抑え切れない。
こんなにベタな、こんなにアナクロな話なのに、セカチューなど問題にならない作品になった。これは歴史に残るマンガだ。

森薫「エマ」はすでに当サイトで何度も触れてきた。

一方、大場つぐみ・作/小畑健「DEATH NOTE」
映画がヒットし、アニメ化も進行中。個人的にはこれが少年誌(少年ジャンプ)に掲載されたことが一番大きいと感じている。
主人公の夜神月(月と書いてライトと読ませている)は、デスノートを偶然手にして、犯罪者を裁くために用いる。それが独善かどうか。法とは、宗教は、メディアは、政治は、善悪とは、そして何より生きるとはどういうことかを問う作品となっている。
圧倒的な力を得たはずの主人公が辿る結末は、切なく、また読者層の少年に様々な問いを投げかけるだろう。
この作品を読んだ子が成人した頃には、新裁判制度が一般化しているはず。
少年の頃から法についての思考を読まされた子らが、どのような考え方をするようになっていくのか。

あと、よしながふみ「大奥」がたいへん気になっているけど、未読のまま(現在、単行本2巻まで出ている)。

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というわけで、今年全体の補足でした。

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羽海野チカさんはハチミツとクローバーで人気の女性漫画家です。昔はスラムダンクの同人誌などを書いていたそうです。プロフィールなどをまとめたホームページです。 [続きを読む]

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