メタボラ、完結
朝日新聞朝刊に連載されていた桐生夏生「メタボラ」が、12/21に完結した。
これまで作者が書いてきた強い毒、また登場人物の揺さぶりがこちらに伝搬してくるような振動はなかった。
その分、出てくる登場人物の情けなさを、突き放して容赦なく描く筆致が冴えていた。
主人公が密林を逃げるところから始まる。ケガをし、熱帯の原生林らしきそこを逃げていくと、一人の男に出会う。声をかけると、その男も何かから逃げようとしているらしい。呼び止めて、一緒に街まで降りる。
主人公は記憶を失っている。背の高いイケメンの昭光(アキンツ)は、主人公にギンジと名を付け、自らもジェイクと新しい名を名乗る。そして、この沖縄での二人の新しい生活が始まる。とはいえ、二人は宿も寄る辺もなく、とりあえずたどり着いたコンビニでバイトをしている女性に声をかけるところからスタートするしかなかった。
ギンジは記憶がないなりに、生活に適応しようともがく。アキンツはいいとこのボンボンでこらえ性がなく、女にモテる容姿が自慢で、逃げてきた故郷よりも自由な暮らしがしたい。
こんな二人を追う眼は、二人が別れて暮らしていく様を淡々と追う。ギンジ主観でいらいらするくらい戸惑う暮らしを描くうち、自分が集団自殺の現場から逃げてきたことを思い出す(ただし全貌は思い出せない)。一方、アキンツ主観では、彼がギンジについた嘘を見せながら、彼の弱さを描き込む。
ギンジは仕事をしながら流れるうち、ゲストハウスのスタッフになり、そこから沖縄の政治にからめとられていく。アキンツは、いやジェイクはホストクラブに勤めて人気が出るが、故郷で好きだった子が店長の客になっている様にがく然となる。つまり、恋にからめとられる。
二人はそれぞれの居場所で、頭の片隅にお互いのことを思いつつも、目前の問題で動きがとれない。そして…
山も盛り上がりもなく1年以上続いた連載を、一度も逃さずに読んだ。読まざるを得なかった。ギンジとアキンツはどうなっていくのか、二人の翻弄される問題は沖縄特有なのか日本の問題なのか、目が離せなかった。
最終章で急転直下の展開の後、ほんの一時の解放感を味わったところで終わりを迎える。それは静かに締め上げていくように続いた緊張の末の、つかの間の脱力としか言いようがない。
ニートだのワーキングプアだのに分類されてしまう二人は、こんな形でしか解放を味わえないのだろうか。いや、あの分類は果たして正しいのだろうか。
しかしこのラストは、これからさらに過酷さを増すはずの二人が、少し光を浴びた瞬間を捉えて、明るくもあるのだ(なんてことだ)。
ラストが気になる方。未読なら、来年の春に出版されるであろう単行本でご確認いただきたい。
まさに今を切り取っている力作。
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