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2006.12.12

アーノンクールのモーツァルト3大交響曲

先日ちらりと触れた、アーノンクール指揮、ウィーン・フィルハーモニーの来日公演、モーツァルトの交響曲第39〜41番。
放送されたビデオで観賞。
さすがにインパクトある演奏だった。曲の番号順に演奏されたが、尻上がりによくなっていったようだ。

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ウィーン・フィルだから、ヴィブラートは豊富だし、無理してピリオド奏法に特化はしない。響きは豊かでふくよか。
一方で、金管やティンパニを抑えようとせず、アクセントは際立たせる。フレーズの始点と終点を明確にして、流れる音の中でも特に句読点がくっきりした演奏。

これにより、アーノンクールの意図する響きの骨組みはきっちり伝わるものになっていた。3曲に共通するアプローチはそのままだが、それぞれの曲の主題をとても丁寧に組み立てるため、3曲の異なる性格が一気に明らかになっていく趣向。
これまでコンセルトヘボウ、ヨーロッパ室内管弦楽団などでやってきた演奏と基本ラインは同じ。

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素晴らしい効果を上げていたのは、41番(通称ジュピター)。
第1楽章、提示部で序奏なしに現れるハ長調のどっしりした主題(Aパート)。同じフレーズを3回繰り返すが、3回目に向けて力強くなる。それを受けるヴァイオリン(Bパート)を優雅に柔らかく、しかも間をとる。第1主題のAパートとBパートに異なるテーゼが込められて、その対比は演劇そのもの。
この開始を起点にして、音楽のすべてが抑揚豊かなセリフの応酬のように響く。モーツァルトがハ長調という調性に込めた力強さが、大きな劇空間になり、ほとんどベートーヴェンを呼び出す一歩手前になる、というのはやや大げさか。

アーノンクールは、強いアクセントを伴う造形から、歌や官能に欠けるような印象を与えがちなのかもしれない。
しかし、この曲の第3楽章で聴かせた半音階下降の色っぽさ、アクセントをつけるトランペットの音色、トリオの木管、どれも実に官能的だった。

しかも、第4楽章がなぜフーガを採用したのかが、明確に伝わる演奏でもあった。
爽やかな河の流れのように歌う主題は、本来は力強さを押し出すことに向かない。そこに柔らかさ、不安、喜びといった陰影を(単なる転調以上の効果で)与えていく。そして何より劇的な力強さを随所に轟かせる。そのためにフーガを採ったのだから、どの楽器も遠慮なく伸び伸びと鳴らす。この曲に込められた色合いの豊かさと、強い響きをほぼ満遍なく描き出して、満場の喝采を浴びていた。

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40番(有名なト短調)も、速い第1楽章や第4楽章が見事。

しかし、最大の聞き所は第3楽章。主部が早く、トリオがゆったりとしたテンポになるのは、他にもやる人がいる。
むしろアーノンクールらしいのは、この曲の3拍子の背後に秘められた、2拍子的なフレーズを、アクセントをうまく使って前面に出すところ。惑乱されるようなリズムによって、この曲の前衛性が前に出る。
その驚きと、心地よさ!

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最初に演奏された39番(変ホ長調)は、ついいつもの癖で弾こうとするウィーン・フィルが垣間見えて、アーノンクールとの間にやや齟齬があったのか、ちょっと聞き応えに欠ける印象。
元々この曲の第2楽章はやや機械的な繰り返しに感じる瞬間もあるだけに、少々退屈。

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アーノンクールが古典派をやるなら、一番相性がいいのはおそらくヨーロッパ室内管弦楽団だろう。同じレベルをウィーン・フィルに求めるほうが妙なのかもしれない。
その意味では、アーノンクールの最善の演奏であったかは、少々微妙に感じる。

それにしても、あえてピリオド奏法を無理強いせずとも、音楽の造形だけでここまで自分の響きにしてしまうとは。
もはやピリオド奏法、ピリオド楽器、などと言うのは野暮であって、楽曲の持つ性質や背景を深く感じ取ることにすべてを注げ、とでも言いたげな演奏。いや、彼はそう言っているのだ、常日ごろ。様々な研究と実践をやり尽くしてきた人ならではの重み。

前進し続けてきた偉人は、なおも前進中。
そして、この前進し続ける自由さがあればこそ、ラトル、ダニエル・ハーディング、パーヴォ・ヤルヴィらも前進している。
二度と同じ演奏を出来ない、だからクラシック音楽だって常におもしろい。それが伝わるだけでも、刺激的だ。

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