ミステリアスセッティグ、読了
阿部和重「ミステリアスセッティング」、読了。
携帯電話の電子書籍に連載されていた作品。単行本で初めて読んだ。
シンプルな文章、一直線に進むストーリー。
阿部和重としては珍しい(おそらく初めての)page-turnerな小説。
純粋・多感でお人よしなシオリは、吟遊詩人という言葉に出会ってから、自分の将来を決意する。中学卒業後、すぐになるつもりだったが、高校には行かされることになる。
10代の女の子らしく初めての彼氏と付き合うが、そこで音痴であることを宣告される。やがてすれ違い、あっけなく別れる。
高校を卒業すると作詞家を目指すべく、上京して音楽の専門学校に入る。しかし担任との折り合いが悪く、友人もできない彼女は、携帯電話の掲示板で見つけたメル友との会話に慰みを見出す。
三軒茶屋を中心にたむろす本物の吟遊詩人に憧れつつ、バイトと通学に明け暮れる彼女は、メル友の一人「ポルトガル人のマニエル」が参加しているバンドのライヴに招待される。そこでバンド加入を要請され、断ると、マネージャならと半ば無理矢理加えられる。
ここでもうまくいかない彼女は、結局バンドを去ることになる。帰国直前のマニエルは気の毒そうに謝罪する。そして、黙ってあるスーツケースを預ける。それは実はスーツケース型核爆弾であるという。処置に困った彼女は、どこか捨て場がないかと街をうろつくうちに、自分が初めて東京を観て歩いていることに気付く。
しかし、たまたま時限スイッチが入り、数時間のうちに処理しなければならなくなる。2011年、まだ19歳の彼女が選んだ方法は…
ストーリーは確かに一直線でわかりやすいものだが、そこは阿部和重。
作品内で使われることに結びつく現実の記事を、話の導入前に並べる。
さらに、話者は自分の幼い頃を思い出しており、妙に広い公園に集まる人の中から、妙なおじいさんのする紙芝居を聴いた、としてストーリーに入っていく。
時折見かける、押しの弱い、ごく普通の女子を、妹や友人との鮮やかな対比で描く。また自分の歌声と随伴した人や動物の死に、自らの運命を感じ入ってしまうような思い込みと情けの深い性格は、迷信深いとさえ言える。
霊魂、輪廻を素朴に信じてしまう、最近の若者のようだが、直接そのような話題は出てこない。むしろ、セカチュー、NANA(←コミックだ)あたりから目立つ、あまりに感じやすい若い女子を描いているように見える。
文や話こそわかりやすいが、これはむしろ「ニッポニア・ニッポン」の陰画なのかもしれない。性格も設定もまったく異なるが、登場人物の思いの強さ、クライマックスで鳴り響く音楽という共通項も目立つ。
(「ニッポニア・ニッポン」は、トキセンターに侵入して革命を起こそうとする少年を描きつつ、トキ=日本を描こうとした野心作。)
年末、ぱっと光る作品に出会えた。
教育基本法改正問題、いじめ問題で大揺れになった今年、これが単行本化されるのは一体何の因果か、などと呟きながら読んでみるのも一興か。
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コメント
未読ですが…。
この表紙はニッポニアニッポンの表紙右下の少女を意識していますよね。
投稿: 鳥子 | 2006.12.31 11:33
それは考えなかった、というより、ニッポニアニッポンは雑誌初出時に読んで、単行本をちゃんと買っていなかったです。。。
今度書店か図書館で見てみます。
投稿: Studio KenKen | 2006.12.31 12:19
あ、見てないんだったら指摘して良かった(喜)
私は新潮文庫の「ニッポニアニッポン」を持っているのですが、解説で斉藤環が表紙画像を読み解いております。
投稿: 鳥子 | 2006.12.31 20:19
いいことを聞きました。読んでみます。
しかし、雑誌で読むと、単行本を買い損ねることもよくあるような。
投稿: Studio KenKen | 2006.12.31 23:51