すこぅし、でもチクリと
川上弘美「真鶴」について書いた。
付け加えるなら。
村上春樹が「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」で手にしたような大きな跳躍である。
見事な作品を味わった歓びがある。
その一方で。
ある感情がにじみ出ていた。
くやしい、と。
いや、くやしい、という言葉に宿るような激しい性質(タチ)ではない。すこぅし、でもチクリと、くらい。
それに、連載時に真価を見抜けなかったとか、川上弘美をなめてましたとか、ましてや書きたかったネタとかぶった、などといったつまらない理由ではない。
でも、言葉にするならやはり、くやしい、が一番近い。
あえて言うなら。
自分の中に潜むなにものかを、柔らかく射ぬかれたような感じ。それに揺り動かされて、違う光と感触が開けた感じ。
それは、上質の小説を味わった時に感じるものでもある。
これほど浸透力の強い作品は、ほんとうに久方ぶりのように思う。
そして、これほど揺り動かされたからには、どこかで、自分の言葉なりに、オトシマエをつけなきゃいかんな。とも思う。
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