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2007.02.09

歌うネアンデルタール

昨年、発刊された5月末頃に購入したにもかかわらず、最初の2章くらいで中断していた書物があった。今年に入ってから再開し、読了。
スティーブン・ミズン「歌うネアンデルタール 音楽と言語から見るヒトの進化」早川書房(原著:Steven Mithen, 2005, "The Singing Neandertals: The Origin of Music, Language, Mind and Body")。

著者はレディング大学人間環境科学部長、大学院研究科長。専門は考古学(先史時代)、ことに近年の人間研究を背景に発達してきた認知考古学。

数年前「心の先史時代」青土社(原著:1996/1998, "The Prehistory of the Mind: A Search for the Origin of Art, Science and Religion")が翻訳された。
ネアンデルタールが物事を固定的にとらえて対応するため、行動を保存することは可能だが、それ以上の発展が難しかったであろうこと。
一方、ヒトは認知的流動性を獲得したため、言葉と比喩を生み出し、行動を次々に変容させて文化文明に到達していった。
この顛末を、先史時代の人々の精神に踏み入って描き、話題になった。
(ただしこれは、定説というより、現段階でこのようにradicalに考える人がいる、ということである。大きな仮説として読むのが正しい。)

本書はその発展。音楽、言語と心に関する考察を、脳神経科学/心理学/音楽学などから音楽サヴァン、失語症といった知見を紹介し、ヒトにとっての音/言語/音楽を検討していく。
その現代篇の知見を踏まえて、霊長類から先史時代のホモ族、人に至る過程で、音を媒介とするコミュニケーションがどう発生し、それが言語と音楽にどう連なっていったかを、広く見渡していく。
そうして、初期のホモ族にあった、語に分かれず、ワンフレーズが一つの意味を持つ全体的発話を、「Hmmmmm」(全体的 Holistic、多様式的 Multi-Modal、操作的 Manipulative、音楽的 Musical、ミメシス的 Mimetic)ととらえる。
二足歩行により、リズムを持って身体を制御することがとても重要になったこと、セックスアピールと石器や歌の関係、赤子を地に置いて採取活動を行うため声による抱擁が必要だったこと、などなど多くの傍証や仮説を引き、その必要性と発展を示していく。
その極点にあるのはネアンデルタールによる、絶対音感を駆使した歌うコミュニケーション。
一方、ヒトは認知的流動性を獲得し、象徴を扱い、言語と音楽を分化させていった(注:ヒトは多くの場合、先天的に備えている絶対音感を、発話習得の過程で失う)。

ミズンは「心の仕組み」を書いたスティーヴン・ピンカーが、言語(つまり知性)ばかりを重視し、音楽をヒトの発展にあまり関与していないように扱うことに異議を唱えている。
近年の脳科学でも感情がヒトの意識や行動を深く支えていることが判明しつつあるが、個人的にも同感。音によるコミュニケーションから社会へ、そしてヒトへと至る道筋の仮説は、おもしろい。
単に音楽が好きなだけで読むにはきついかもしれないが、人間って何なのか、その中で音楽と心のことを考えたことがあれば、興味深く読める。

すごく内容が広い書籍なので、今回は紹介にとどめる。また音楽について感じたこと、考えたことがある時に、触れることもあるだろう。

一つ難点がある。索引が割愛されていること。後から調べる時、とても不便。
紙数の関係と書かれてはいるが、492ページの大著の索引を割愛するのは、もったいない。
この手の学術書の日本語版に時々あるが、ぜひ索引も含めて訳出していただければありがたい。

[追記]
言うまでもないが、「心の先史時代」同様、この著作の提示する説も、大きな仮説である。
そもそも非常に少ない物的証拠をベースに心まで探れるのか、という問題があるが、脳神経科学や認知科学・認知心理学を援用した認知考古学は、それなりに研究者がいる分野らしい。
その多くは「人間らしい知性・知能はどう育まれ、いつ生まれたのか」に関心が向く。そこから音楽に踏み込んだという点で、この著作は野心作、と言うのが適切じゃないかと思える。(2007.02.11)

[トラックバック]
・Sixteen Tones:「歌うネアンデルタール」(2007.02.11)
・[ EP: end-point 科学に佇む心と身体Pt.2]:「歌うネアンデルタールと音痴なミズンの科学」(2007.02.11)
・Lady Soul LEO weblog:「歌うネアンデルタール (2006)」(2007.02.11)

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» 歌うネアンデルタール [Sixteen Tones]
副題 音楽と言語から見るヒトの進化 スティーヴン ミズン Steven Mithen (原著), 熊谷 淳子 (翻訳) 早川書房 (2006/06) このカバーはどう見てもゴリラだな.洋書の表紙のほうも,看板に偽りである.ネアンデルタールが楽器を使ったと本文には書いてない. 著者は「初期人類は歌うこと・踊ることが会話であったとし,彼らのコミュニケーションを全体的holistic,多様式的multi-modal,操作的manipula... [続きを読む]

受信: 2007.02.10 18:27

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