Astral Project 月の光、完結(ビーム)
だいぶ旧聞に属することだが。
コミックビームに連載されていた「Astral Project 月の光」(作・marginal、画・竹谷州史)が、2007年3月号(2月12日発売)にて完結した。
(2月の話だからな。ほんとのほんとに旧聞だな。)
東京で売春婦の送迎をしながら生活している「まさ彦」(まさは木に正)。
姉の死に衝撃を受けるが、CDが残された。それを聴くことで必ず起きる体外離脱現象。
アストラル界での現象に慣れ、そこで生じた出会いから、地上と異世界の二重生活が続く。
一方で、米軍の奇妙な実験は、話が進むにつれて(予想通り)まさ彦の姉がかぶってくる。
広げればいくらでも広げ、深め、大暴れもできるネタを、あえて抑制した筋書きと画のタッチで進めてきた。
この話は基本的に夜に進む。
売春婦の送迎、出会った老子風のザンパノが実は浮浪者であったこと、仲よくなった美佐の壮絶な家庭環境と暮らしぶり、しかも彼女はザンパノの娘であったことなど、闇に関わる環境と描写ばかりが進む。
そして、体外離脱も、夜に行われる。
最終回は、平凡で快活で平明な、昼間の生活だった。
ただし、話をしたかった姉とついに合えたと同時に、もう二度と会わないし会えない、アストラル界にも戻らない、という覚悟を伴って。
それまで執拗に続いた闇や夜、ついに姉に会えたその時も夜。
姉から去る時、主人公を支えた存在のセリフ「急げ!もうじき夜が明ける」は象徴的だ。
そして去って行くまさ彦に「男なら決して振り向くな」と告げる。
黄泉国から戻るイザナギ、あるいはオルフェウスの二の舞いは、ここでは起きない。この世界と紙一重のアストラル界のことを、散々経験したのだから。
この連載は、アストラル界(と主にニューエイジなどに関心を持つ人々が信じる世界)のことを、あまりにも正面から、いやむしろあまりに(その手の)教科書通りに描いた。
当初は「なんでいまごろこんなことを」という思いで読んでいた。
しかし、音をキーにして起きる体外離脱が、あるFM放送を通じて一斉に生じること、さらにその現象を元に、日本という国が2次元に精神構造を犯されまくっているところに視点が赴くあたりで、なるほどと感じ入るものがあった。
異世界はあるのかもしれない。
が、人は生まれ落ちたこの世界を離れて生きることはできない。
だから、そこに戻ってくるしかない。
古今の物語の王道だ。
王道にもう一つ「異世界に憧れっ放しで帰って来ないヤツがどうなるか真剣に考えてみてもいいんじゃねぇか」が加わる。
「どうだ、売春方面のあやしい仕事と露天商……どっちがいい?」
「そりゃぁ昼に働くほうが気分がいいに決まってるよ」
このセリフも二重三重に象徴的であり、かつ教訓そのものではないところがいい。
静かで熱い話だった。無事完結を(いまさらながら)祝いたい。
この号で炸裂した福島聡「機動旅団八福神」も、いま熱いです。
(つか、コミックビームはいっつも熱いけどな。)
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