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2007.10.31

音のタイムカプセル

あ。音楽の捧げ物、だ。

グスタフ・レオンハルトがチェンバロ演奏と全体監修を行い、クイケン3兄弟がヴァイオリン、フルート、ガンバを、またロベルト・コーネンが第2チェンバロを担当。
1974年、セオンレーベルの録音。
発売当時は評価が割れたが、いまは名盤の一つに挙げる人も少なくない。

自分で選んでCDをかけたんだ、確かに。
数えきれないくらい聴いてきたけど、ここ数年聴いてないと思って。
けれど、まるで初めて聴いたような新鮮さで、急に迫ってきた。

まだ古楽器(というよりオジリナル楽器)による演奏が少なかった頃の演奏。
今聴けば、もっと溌剌とした、あるいはもっと思慮深い、あるいはもっと力強い演奏もある。
だけど、肩の力を抜いて、虚心坦懐に譜面と向かうその演奏は、前からそこに木が生えていたように、岩がずっとそこにあるように、静かな佇まいで、目の前にある。

…バッハ亡き後、彼を知る者、慕う者が集まってくる。
在りし日の姿を各自が思い起こしながら、残された楽譜から音を編んでいく。そこにいるであろうバッハ先生に、音の編み物をお召しいただけるように。
数分ごとに曲が替わりながら、一貫したテーマに導かれている。それぞれの生地=曲のおもしろさを、ただ静かに、かみしめて、編んでいく。
この時の音がカプセルに閉じこめられた。
今まさに、それを開けて現出させている…

そんな気分になった自分に驚いた。
でも、静かな音の気配の中から立ち上がるチェンバロやフルート、ヴァイオリン、ガンバを聴いていると、そんな気分が封じ込められているようにしか聞こえてこなくなってしまった。

まるで「自分はあの素晴らしい時代に生まれることが出来なかった」とでもいうような嘆息と憧れを込めた響き。それなのに、演奏にはなんともいえないニュートラルな静けさが芯にある。
このニュートラルな形の美は、15年ほど後、このメンバーが中核となった、ラ・プティト・バンド演奏によるロ短調ミサ曲に結実するけど。
オリジナル楽器を使った演奏の秘跡、とでもいうべき静謐な美が開示されたのは、この1枚だったのかもしれない。

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