絶対移動中 第四号 感想
このブログ、しばらく放置気味になってたけど、節もあけたし、気を取り直していきましょう。
昨年、お誘いいただいて私も参加した創作冊子「絶対移動中」(toricoさん主宰)の第四号。
短編小説5本、マンガ1本が掲載されたアンソロジー。
文学フリマの出店(昨年の11月)にもお付き合いしたのだが、まだきちんとした感想を書き記していなかったので、残しておきます。(遅くなってすみません。)
掲載順、ただし、自作は除きます。
「台風のどまんなかで」蜜蜂いづる
俺の部屋に妹のタエコが泊まりに来る。部屋の汚さや食器に文句を言いつつ、清掃と食事の準備をする妹。そうして、台風の夜が更けていく。思い出す両親による独特の教育、そして姉のこと。嵐の中、違うモードの会話。朝、台風一過とともに、何事もなかったように戻る暮らし。
詳細はネタバレになってしまうので書けないが、台風と、親から受けた独特の教えが二重構造になった作品は、今回のアンソロジーで一番文学してる。
当たり前の暮らしを続けていく中で、ふいに現れる過去の裂け目に向き合う気持ちが、(重い題材を含むにも関わらず)さらりと書かれた好編。個人的にこの冊子の中で、一番気に入っています。
「かむながらのみちはとわにつづく」秋山真琴
日本の神域で行われる儀式、その幻想風景。
祀りの深更は、異界とのつながり。その闇の様相が描かれていく文体は、短く引き締まって、推進力がある。あれこれ手管を弄さないラストも潔い。
長い廊下の障壁画か、短いモノクロフィルムのような趣が心地よいですが、ラストにもう少し闇とのコントラストがあると、映えるかと思いました。
「ファニーライフ・秋」ファニー
本冊子唯一のマンガ。とても短いけど、秋の日暮れをツイと切り取っている。ほっとして、ちょっとひたっていたくなる景色、うれしいラスト。
絵柄がよかったので、もしかすると、吹き出しのフォントも手書きのままのほうがよかったかもしれませんね。
「夢みたい」栗原しんえもん
会社をリストラされて、コンビニで仕方なく働く主人公。彼の最近の楽しみは、同じコンビニで働く、感じのいい女の子とのちょっとしたやりとり。そんなある日、彼の元にやってきた猫は、実は他の星からやってきた生命体であり、地球の調査をしているという。ヤツの仕事に邪魔せず協力すると、希望をかなえることを謝礼として提示される。もちろん彼は…
異世界の生命体が地球に下した決定と、主人公の行動は、読んでいただくのが一番。
個人的には、予定調和をひっくり返そうとした最後の一文が必然性を持っていたかどうかがやや気になるけど、楽しい短編です。
「犬になりたい」伊藤鳥子
新宿駅の人混みでちょっと気分が悪くなったところへ、中年の男に話し掛けられる。少し話し相手になってくれないか、と。警戒しつつも、彼女は一方的に話したいだけだと判断して、聞いてみることにする。
僕がバイト先で知り合った紗鳥さんから、みどりさんと呼ばれるようになったこと、彼女は彼氏というより犬としての関係を持ちたがること、僕がその資質を持っていることを彼女が見抜いていたこと、そうして僕は犬になっていき…
男の話がどうなったかは、読んでのお楽しみ。おもしろさでは本冊子で一番かも。
ただし、ラストの強引さはやや速度が落ちていて、効果が曖昧になったような印象もあります。そこがやや残念。
以上です。
ちなみに、このアンソロジーは、今回で最終号とのこと。
自分がお誘いいただいたということを差し引いても、文学フリマで購入する冊子の中では、充実感のあるほうだと思う。
ちょっともったいない気もしますが、toricoさん及び皆さんの次の活躍をまた楽しみにいたしましょう。
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・絶対移動中主宰toricoさんの「花粉ですね」−−活動情報あり−−(2008/03/23)
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