手塚治虫文化賞は「もやしもん」ほか
「もやしもん」は講談社漫画賞とのダブル受賞。この作品が大好きな一人として、心から祝いたい。
この作品は、手塚治虫が切り開いたコマ運びのリズムによる映像表現をうけて、もう一歩踏み出そうとする意欲が感じられる。時間経過に伴い、主役以外の様々な人物の動きやセリフが手に取るようにわかるのが、そのいい例。菌の表現もおもしろいけれど、それ以上に人の表現がしっかりしているから、落差としての菌が活きてくる。
既に12回となるこの賞は、その名の通り、手塚文化を継承し、かつ発展させようとする作品・作者に賞が贈られる傾向がある、と見受ける。個人的には好きな漫画家ではないが、浦沢直樹氏はまさにそのような方だろう(好きでなくとも、氏が手塚表現をうけて、新しい地点を目指していることは明白に感じられる)。
石川氏は緩急の表現が絶妙で、これまでの大賞作ラインナップとは違う傾向を持っている。そこがいいと思う。
ちなみに、大賞候補作はこのようになっている。
- 『海街diary1 蝉時雨のやむ頃』 吉田秋生氏
- 『大奥』 よしながふみ氏
- 『海獣の子供』 五十嵐大介氏
- 『NANA』 矢沢あい氏
- 『ハチワンダイバー』 柴田ヨクサル氏
- 『もやしもん』 石川雅之氏
- 『闇金ウシジマくん』 真鍋昌平氏
- 『よつばと!』 あずまきよひこ氏
- 『るくるく』 あさりよしとお氏
- 『レッド』 山本直樹氏
おもしろいラインナップだ。22007年は突出した作品こそないが、全体としては結構な豊作だったことを告げてもいる。
「大奥」や「ハチワンダイバー」も多くの読者の支持を得ているし、吉田秋生氏の「海街dairy」も確かにすごい。
ただ、手塚治虫の名を冠した賞となると、「もやしもん」および「海獣の子供」が、新しい映像表現を目指す何かを、より多く含んでいるように個人的には感じている(ストーリーマンガとしての話の主軸だけでなく、映像表現としての新しさも含めると、この2作は他より頭一つ前に出ている、というほどの意味)。
「もやしもん」は作品の進み具合を見ても、とてもいい時期に賞を得たと思う。
一時期、マンガの停滞といったことが言われたが、まだまだおもしろいものが出てくる(当り前だけどね)。
またおもしろい作品が出てくる一年になることを祈念して、再度おめでとうございますと申し上げたい。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント