東京国際ブックフェア短信
今年も東京国際ブックフェアが開催されている。7月10日〜13日、つまり明日が最終日。
昨年から東京ビッグサイトの西ホールになり、規模は拡大傾向にはないようだ(名指しで申し訳ないが、大修館が出ていなくて、ちょっと寂しかった)。
とはいえ、今年も出版社や編集プロダクション、デジタルパブリッシングや印刷関連・書店用品の展示などでいっぱい。また、10%以上の値引き販売を行う出版社も多い(すべてではない、また20%引きの出版社もある)。
人文科学や自然科学関連のおもしろい本が、あっという間に平積みから撤去される昨今のサイクルだから、こういう場を回ると「あ、そういえばあんな本があった!」という発見もある(版元としては、発売後数ヶ月だけど、うちではまだ終わっていない、新しいものですし、読んでくださいね、という主張にもなっているのだろう)。
それはそれとして、デジタルパブリッシングのソリューション展示が増えてきている。
これまでは、電子書籍そのものについて訴えかける展示が多かった印象があるが、今年は書籍や雑誌のコンテンツデータを、ケータイ、Webなど多方面に展開するためのソリューションに関する展示が前面に出てきたようだ。
松下やソニーが数年かけて展開してきた電子書籍専用端末は、事実上の撤退が明らかになった(ITmedia、7/1の記事)。
一方で、電子書籍市場は携帯電話が牽引しながら倍増していることも報告されている(Internet Watch、7/9の記事)。
つまり、電子書籍=ケータイはほぼ確定したし、あえてエンドユーザ向けの機器やソフトを紹介する時期でもなくなった。今後広がっていく新しいメディアの形に、既存の紙媒体のコンテンツをどう活かしていくかが見えにくく、そちらに軸足を移した展示が増えていた、と見受ける。
アメリカのAmazonでは、電子書籍専用端末のKindleが受け入れられつつある、という話も聞く。分厚い本を好きなときに何冊も持ち歩けるからだろうか。
日本ではそれがケータイだったということだが、そもそも日本では分厚い専門書はほとんど売れなくなり、移動の合間にさっと読めるものが主流になって久しい(よく売れる自己啓発本にしても、本場米国発の翻訳は個々の事例にページ数を割いた厚いものが多いが、日本では項目だけをサラッと解説したものが多く、これだけでも書物のあり方が違うのだと想像がつく)。
それなら、電子書籍専用端末よりもケータイでじゅうぶん、ということだろう。
一方で、比較的大きな画面を持ったiPhoneがいよいよ日本市場にも投入された。携帯電話の販売について、全キー局が朝と夜のニュースで取り上げるなんて、おそらく前代未聞。
ちなみに、iTunesのストアには音楽や動画だけでなくAppStoreがあり、iPhone向けのアプリケーションが販売/配布されている(無料のものもあれば、有料のものもある)。
ここで、読書向けアプリケーションが配布され始め、またそのデータも販売/配布されていく、という流れが起きるとすると。
もう少し長めの、いわゆる本を読む、という層も注目するかもしれない。iPhoneは、iPod付き携帯電話じゃなくて、情報端末としてiPodも携帯電話もインターネットも包含する、という位置づけだし、比較的年齢層が高い人々にも訴えかける可能性を秘めたユーザインタフェイスも持っている。
ただし、大きな問題もある。iPhoneに関わることは、Apple, Inc.と、契約したキャリア/オペレータがすべて決めることになり、オープンな場で決定するものとは違う、ということ。そしてそれは、電子書籍に限らず、様々なデータの扱いを、Apple、Yahoo、Googleなど特定の営利企業に預けて流通させることでいいのか、という問いにもつながっていく(営利企業に預けるのが悪い、という話ではなく、そういうケースをとるならどのような運営が望ましいかに関して、コンセンサスが得られるか、という問いになるはず)。
ここ数年は、書物も含めたコンテンツを、どのようなメディアでどう扱うか、というポイントが焦点になってきたように思うが、その動きがいよいよ加速し始めたか。書物はなくならないだろうし、長く残してきちんと引くには適しているが、それ以外の分野は違うメディアに移行していくのか。
そういえば、最近の電子機器は、まずビデオガイドでおおよその使い方を説明し、後で辞書を引くようにPDFマニュアルを検索する、というケースも増えてきた。
インターネット上では、YouTubeの他に、熱狂的なユーザに支えられているニコニコ動画も拡大し始めている(Internet Watch、7/7の記事)。
数年後、2008年は転換点として認識されることになるのか。
いずれにせよ、むしろ楽しい時代がやってくる、と思いながら過ごしていこう。
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