小川洋子の変化?(文學界8月号)
芥川賞は揚逸(ヤン・イー)「時が滲む朝」に決定した。多和田葉子のような受賞者がいたとはいえ、村上春樹、リービ英雄のようにマージナルな地点で書きながら受賞していないケースもあったのだから、素直に喜びたい。とはいえ、揚逸の場合、マージナルというよりも、日本に入るために書いている、というべきなのかな。どちらにせよ、次回作以降はさらに読み応えがありそうな予感。
ところで、今月の文芸誌は割と読み応えがありそうなラインナップが多いようだが、文學界8月号は話題の綿矢りさの久々の創作よりも先に、対談などを読んでいる。
福岡真一×川上未映子の対談は面白かったが、個人的には予定調和的な印象を抱いたのは、私が元々この分野に関心があるからか。高橋源一郎×穂村弘は、読み始めたところ。
それはそれとして、小川洋子の短期集中連載「猫を抱いて象を泳ぐ」が先月号から始まっている。
今度はチェスを通じて、少年が年を重ねていく様を書いている。ただ、なんというか、これまでと勝手というか、印象が違うような。
個人的な小川洋子氏の傑作は「密やかな結晶」なのだが、そこから大きく踏み出すことが出来た作品として「博士を愛した数式」も好きだ。これらに限らず、氏の作品は言葉を通じて実現される絶対的な静謐さがあり、それが現世の神聖な小説として結実するのが王道だった。
今度の作品は、そこからどう踏み出すか、という実験をしているのだろうか。トーンが、聞こえてくる音が、いつもと違うように感じられてならない。
もっともまだ連載の途中ではある。まずは先を読んでからだ。
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