プロフェッショナルを観た(1):脳活用法スペシャル
「プロフェッショナル 仕事の流儀」(NHK)は、様々な分野のプロフェッショナルの現場を取材、そして脳科学者の茂木健一郎氏、アナウンサーの住吉美紀氏が、プロの仕事ぶりについて尋ねる形式のドキュメント番組(以下、敬称略いたします)。
などと紹介するまでもなく、ご存知の方が圧倒的に多いか。
毎回ではないが、思い出すと観る。
この番組、質問があまりに素朴で、上から目線で失礼な聞き方だと、立腹している人も時々いるが、これは意図的にやっているのだと思う。
たとえば心理学的なインタビューをする場合、できるだけ同じような条件で質問をして、その結果を(言葉だけでなく、表情や動作の変化も踏まえながら)分析する。そうやって定性的なデータを収集することは少なからずある。
テレビ番組だから学問的な統制をとるのは不可能だとしても、脳科学者である茂木がスタッフとともに、番組構成と質問のパターンを考え、ゆるい形ではあっても、定性的なデータ集めを行っているのではないか。
だから、あえて素朴な(普通そんなこと尋ねたら答えようもないし失礼だよ、というような)質問をパターンとして発し、ただしあまり解釈を加えず、隣の住吉や視聴者とともに感じていく形をとっているように見受ける。
というより、そうやって視聴者自らが感じ・考えてもらえることを、視聴者を期待し、また信用しているのかもしれない。
めでたく100回を迎えたが、その時のゲストは柳家小三治。
この回はすごかった。笑って笑って、そこから金言がいくつもこぼれてきた。
ふだんテレビをつけない私だが、この時ばかりは本当に観てよかったと、放映を思い出したことに感謝したくらい。
これはまた次に書くとして、本日はその次に放映された100回記念「プロに学べ! 脳活用法スペシャル」について。
考えてみれば、脳科学者である茂木が、番組内で脳科学を背景にした仕事術を話すのは、初めてではないだろうか。
脳科学はまだ始まって日の浅い学問であり、わかっていないことも多い(いわゆるクオリア問題にしても、重要な課題ではあるが、仮説でもある)。その状態で話していくと、ポピュリズムに陥る可能性が高い−−−まぁすでになっているけど。だから、テレビではあまり解説しないのだろうと思っていた。
今回はそこをあえて踏み出し、これまで集まったデータと、脳科学との知見をすり合わせて、確実に言えることを話したような印象を受けた。
たとえば、スランプやプレッシャーに対して、心の中でがんばってみても、あまり変化は起きない。しかし、ある決まった手順や動作を行う(必ず身体をどこか動かす)習慣により、モードを変えることを自らに条件づけると、次第にスパッと仕事モードに切り替わるようになる。(こうしたことは、1990年代にはある程度知られていたと思う。)
しかし、脳科学以前から、作家が「この万年筆で、この席で、ペン先にインクをつけてからでないと書けない」と考えていたり、科学者がいつも決まったスケジュールで行動したりすることは、知られていた。それを脳科学的な見地から応用し直した、とも言える。
また、大きな目標を持ったら、それを中程度の目標に分割し、そこからさらに実行可能なアクションに落とし込む、といったことは、仕事術、自己啓発本などによく出てくる。
いざそれをやろうとすると、実行すべきアクションが延々と続いて、逆にやる気が減退していく、という笑い話のような本当の話も、時折耳にする。
それを「小さな成功体験を大切にして、やる気を出し、持続させていく」という形に置き換えると、やりやすくなる(かもしれない)。
この番組では、それぞれの課題を、各分野のプロが共通して指摘するメソッドとして取り上げていた。わかりやすい。
ところで、視聴者を100人呼び、住吉が代表して、茂木に話を聞く形をとった。
その後で質疑応答に移ったのだが、最初の質問に、私は少し驚いた。
休日、朝起きた時には午前は映画、午後にプール、といった予定を立てるのだが、朝食を終える頃には映画は午後でいいか、プールは来週でいいか、と思ったり、何もやれないで過ごしたりするのだが、どうすればちゃんとやれるか。
うーむ…新鮮な視点…
私の場合、自由時間とは自分だけの可処分時間なので、気分が変わってのんびりモードに入ってしまったら、自分がそれを要求しているのだろうし、誰かに遠慮する必要もないからと、書き出した予定表に「×(中止)」や「→(持ち越し)」と記す。それでよしとしてしまう。なので、そういう悩みはあまり感じなかった。
(そりゃぁ、今日は本当はもっとやろうと思ったのに、と感じることはあります。けれど、本当にやりたいこと・やらなければならないことは、やっちゃう・やるしかないものだし、自由時間にダラダラしちゃったならそれはそれで仕方ないじゃない、そう思うことにする、と。)
だが、茂木の解答は気になった。なんというか。
まずそのような状況を、予定を立てたことで満足した状態になっちゃた、と一言で表現した。
そして、脳はいろいろなことをやっているものだし、そういう時はダラダラしていいんだ、と。
似ているけど、私のやり方(そうなっちゃうんだから仕方ない)より一歩進んで、そういう時はむしろダラダラしちゃってOK、というのはなるほど、と思った。
脳はポジティヴな状態や刺激でないと、うまく働かないと何度も繰り返していた。だから、ダラダラするときはむしろダラダラして、そこにネガティヴなイメージは残さない、そうして眠ったほうが、起きてからの生産性・創造性が違う……そんなことも意味するのだろう。
ところで、脳科学のお墨付きだから、とはいっても、しょせん脳は自分の臓器の一つ、脳の働きをただ分解して説明・納得するだけではあまり意味がない。
一方で、そこから出てくる活用法の知見は、たとえば仕事術や自己啓発本などを読む人にとっては「あー、それもう知ってるわ」となったり、一般的な世間の知恵と似たり寄ったりになることも多い。そうして、それにがっかりする人もいるだろう。
でも、脳云々を話したところで、結局は人間のことをみているのだから、当然だろう。自分の習慣はいいと立証された、と喜ぶほうが精神衛生上もよい(笑)。
むしろ、本人はポジティヴにやっているつもりでも、考え方の癖としていつの間にか染み出るネガティヴな言葉などを、どうやって注意深く避けるか、といったことが、今回触れられていない問題なのではないかと思った。
そのヒントとして私が考えたのは、番組の中で出てきた「エンボディメント」。
笑顔がポジティヴな状態を作り出しやすい、というのは直感的にわかる。さらに、うれしい時にピョンピョン跳ねる、といった例も思いつく。表情筋以外の、全身の筋肉もからんでいるだろう。
ネガティヴな言葉や思考の癖が出ている時は、身体の姿勢など筋肉の動きも連動しているのではないか。
それがあたっているならば。
ネガティヴな状態になっていると気付いた時は、その時の姿勢、身体で力が入っている部分を意識してみる。
たとえば背中が丸まっていたら、立って伸び上がり、空を見てみる。
たとえばため息が出ているなら、あえてゆっくり吐いてから、またゆっくり吸ってみる。
たとえば顎を噛みしめているなら、口をダラーンとさせてから、ニュートラルな状態に戻す。
なんてことをしてから、ニュートラルな心持ちで考え直す。
もちろん、うまくいった時の身体の状態もモニターしながら、ポジティヴになりやすい身体にもっていく、ということも可能だろう。
(そう考えると、武道などをたしなむのは、いいことなのだろうか。私の場合、楽器演奏がそれに当たるのかもしれないけど。)
こんな自分実験をしてみるのもいいかもしれない。
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