« ちょっと独り言(?) | トップページ | ニケ指揮、ル・コンセール・スピリテュエルの東京公演(2) »

2008.10.30

ニケ指揮、ル・コンセール・スピリテュエルの東京公演(1)

先日触れたが、エルヴェ・ニケ指揮、ル・コンセール・スピリテュエルの東京公演が終了した。
2005年に一度企画されたが、助成金がおりず、やむなく中止となった
今回は3年越しの実現であり、まずは関係者および出演者に感謝したい。
特に、入り口できちんとした解説の書かれたプログラムが、無料で配布されていたことは特筆に値する。

長くなりそうなので、今回は複数に分けて書いてみたいが、まずは全体的な印象から。
すごかったのは、大編成による音量だけではない。それだけなら、現代のオーケストラを聴けばよい。
大編成のユニゾンがもたらす表現力の豊かさ(音量、音色、和声のすべてにおいて!)、それをバネにしたバロック時代のロイヤルな音楽の巨大さを如実に体験できる美の祭典になっていた。こんな演奏会は、一生に何度も体験できない。

***

さて、今回の曲目。

  1. ダンドリュー:戦争の描写
  2. ヘンデル:組曲「水上の音楽」第1組曲ヘ長調
  3. ヘンデル:組曲「水上の音楽」第2組曲ニ長調
    *** 休憩20分 ***
  4. ヘンデル:合奏協奏曲 第4番op.3-4および第5番op.3-5より抜粋
  5. ヘンデル:組曲「水上の音楽」第3組曲ト長調
  6. ヘンデル:組曲「王宮の花火の音楽」ニ長調

2002年録音、GLOSSAレーベルから発売されたCD「水上の音楽&王宮の花火の音楽」は、多くの国で話題になった。今回はその曲を核に、フランスの作曲家ダンドリュー(ルイ14〜15世の時代、ヘンデルらと同時代人)、およびヘンデルの合奏協奏曲の抜粋が加わった、盛りだくさんな内容(2時間を優に上回る)。
特に、フランス人指揮者によるフランス・バロックが聴けたのは、とてもうれしかった。洒脱なアクセント、清潔なアーティキュレーションで、実にすばらしいフランス風の均整と力強さを味わった。

***

ヘンデルのCD録音時の編成は118名であり、それより一回り小さな80名の公演だったが、それでも通常の古楽器オケの倍近くの陣容(人数は先日の記事にあり)。
現代の100名規模のオーケストラとはまったく別の意味で、東京オペラシティの大ホールほぼ満席の聴衆を圧倒するだけの、音量と厚みがあった。古楽器は倍音構成が複雑だ。それが大量に重なると、強烈かつ心地よいうねりが発生する(ユニゾンの凄みは、雅楽のそれに近いものがある)。
かつてのロイヤルな音響空間が、実に巨大だったことを肌で感じることが出来ただけでも、大きな収穫だった。

特に、8バッソン、2コントラ・バッソンの効果は絶大で、チェロやコントラバスと重なって、腹に響くほどの厚みを築いていた。加えて、弦楽器だけではどうがんばっても出せない艶もあった。木管楽器の力だろう。
また、2メートルを超えるコントラ・バッソンは、音だけでなく、視覚的にも効果絶大(実際、ヘンデル演奏のために奏者が入ってくると、客席がざわめくくらい驚く人が多かった)。

***

しかし肝心なのは、大人数になっても、濃密な表情がまったく失われないこと。

たとえば「水上の音楽」の第1組曲。
冒頭は(CD収録の時と異なり)弦楽器だけで始まる。その表情は親密でなめらか、とても豊かで、思わず微笑みが浮かんでしまう。
一度主題を奏して繰り返す時に、木管群が加わる(オーボエだけで18名!)。すると、音量だけでなく、金色を思わせる艶と輝きが備わる。
オーボエ首席奏者の大きな動きに添って、ここでも非常に濃密な表情が織り込まれ、人数が増えたことで表現力も上がるのだ。

他にCDと異なる点として、カデンツァをオーボエ首席が奏することがあった。
このときも、弦楽器と違ったなまめかしさから、いかにも夜の音楽という風情が漂ってきた(初演時の船遊びは深夜の強行軍だった)。

速いテンポで9本のホルンが入ると、空間を制圧する強烈な響きが押し寄せてくる。
興奮するな、というほうが無理。

しかも、どの奏者も実に高いレベルで合わせてくる。
もちろん実演での完璧はどの団体でも(たとえベルリン・フィルなどであっても)無理だが、少し乱れそうになっても、すぐに立て直す(こういうところは、現代の最高水準のオーケストラに比肩しうるものだった)。
普段は大編成をあまりやらない奏者達を、これだけの合奏精度で統率するのは並大抵のことではない。ニケの指揮そのものは大味だが、練習やリハーサルを通じて一貫性ある音楽が浸透していなければ出来ないことだ。

万事がこんな調子で進む。
しかし、今回の華はやはり金管楽器だったろう。
その金管楽器がもたらすミーントーンのすばらしさ、それがもたらす音楽の輝きも、今回の収穫だった。
次回に続く]

|

« ちょっと独り言(?) | トップページ | ニケ指揮、ル・コンセール・スピリテュエルの東京公演(2) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/16751/42959128

この記事へのトラックバック一覧です: ニケ指揮、ル・コンセール・スピリテュエルの東京公演(1):

« ちょっと独り言(?) | トップページ | ニケ指揮、ル・コンセール・スピリテュエルの東京公演(2) »