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2011.10.22

Dennis Ritchie 逝去に思う一区切り

Steve Jobsについては、Apple社設立者の一人にして、Apple IIで世界を席巻し、MacintoshでGUIを世に広め、一度は社を追われながらも戻って中興させると、iPhone/iPadを生み出してポストPCを見据えた新しい情報端末を生み出した人物として、いまではかなり多くの方が認知している人物だ。
その逝去はロックスターと同等か、それ以上の扱いだった。

一方、10/15にはDennis Ritchie(デニス・リッチー)氏の逝去が報じられた。こちらは一般紙よりもIT系の専門誌中心だった。たとえばマイコミ・ジャーナルの記事(10/15)。
ごく一般的にはUNIXおよびC言語の父、といわれる。もう少し踏み込んでほしい気もするが、それはさておき。

私はUNIXとC言語を通じてコンピューティングとプログラミングの基礎を学び、MacintoshのGUIを通じてコンピューティングが肉体的な意匠をまとう様をみた。
だから、会社でUNIXを使い、Macを自身で所有して使ってきた。
言ってみれば、JobsとRitchieらの示したコンピューティングとは、自分の精神的な故郷といえる風景でもあった。
この二人が亡くなったのは、自分としては一つの区切りに直面している感慨がある。

***

UNIXはそもそもMulticsという新しいコンピューティング環境を実現するプロジェクトの複雑さから派生して、より簡素で柔軟な環境を指向した結果、生まれたもの(リッチーと共にUNIXを生み出す仕事をしたカーニハンが著書で触れていた)。
テキストファイルを扱うコマンドを多数備え、OSの設定からユーザのデータまで、同じ操作体系で扱える。それを対話型のシェルで直接制御できる(それまで一般的だった大型汎用機と比べると、インタラクティブにシェルで対話していける環境は画期的であり、MS-DOSをはじめとする多くのPC用OSに影響を与えた)。
シェル上でコマンドが生み出すテキストファイルをパイプで連結し、次から次へとデータを加工して渡していける。シェル上での定型処理は、スクリプトとしてテキストファイルで保存しておけば、いつでもシェルから実行できる。また、テキストファイルからデータを取り出して処理するawkのように、スクリプトで処理を記述できるコマンドもある。
それでも足りない処理を追加開発するためのC言語は、UNIXそのものを記述している言語でもある。

テキストで記述・処理し、シェルを通じて統一的に扱えるコンピューティング環境の簡素さ。また、C言語の記述性の高さ。そうしたことからUNIXは多くの研究者・開発者に支持され、1980年代から爆発的に普及していった。
UNIXが動作するエンジニアリング・ワークステーションはソフトウェア・エンジニアが触れたいものの一つであり、私もそこでコンピューティングを学んだ。

1990年代、大型汎用機のダウン・サイジングはUNIXワークステーションの普及に拍車をかけ、PCハードウェア上で動くUNIXも出てきた。さらに、1995年からはインターネットが一般にも普及する時代がやってくる。一般にはWindows95の始まりだが、現在のコンピューティング環境をみる上では、インターネットの普及とともに、多くのサーバがUNIX化していったことが一番大きい。
Linuxだって自前でソースコードまですべて扱えるUNIX的な環境を指向して開発されているし、Mac OS XにはBSD UNIXのカーネルが入っている。

20世紀の後半のコンピューティングをリードして、インターネットを世界に広め、21世紀へと拓いていったのは、まぎれもなくUNIXとC言語から生まれてきた環境であった。(インターネットに接続するためにUNIXサーバを準備していった、という側面も大きかったが、インターネットがUNIXと親和性を持って育っただけに、鶏と卵みたいなもんだ。)
iPhoneやiPadなどは、そうやって出来上がったインフラ上で踊るための端末と言える一方で、iOSはMac OS Xとの共通層があるだけに、端末上のソフトウェアも開発環境もUNIXとC言語から派生しているとも言える。

***

新しい世界像を結実させたといえる二人が、相次いで逝去したこの10月。
しかも、UNIXワークステーションの普及に大きな役割を果たし、オブジェクト指向言語Javaを生み出したSun Microsystemsは、既にOracleに吸収されている。
昔のことを思い出し、それらが熟成してきた結果が今なのだなと思ったりもする。
そうして、故郷はもうないし、そこから自由になっていい、いや積極的にそうすべきなんだ、という感慨も覚える今日この頃である。

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