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2011.10.07

S.Jobs逝去

本日のお昼前から、ネット界隈だけでない、一般ニュースも含めて騒然となったニュース。
Apple創業者(当時はApple Computer)にして、一度は追われながらも返り咲き、Macの製品ライン刷新とiPodで瀕死の企業を建て直したばかりか、MacやPCの次の時代をiPhoneやiPadで創造したS. Jobsの逝去。享年56歳。
あちこちで報じられているので、もうあえてリンクは貼らない。

それにしても、CEOを後継のTim Cookに譲り、彼らがiPhone 4Sを発表した直後とは。
なんというタイミング。

ただ、もう一つ思うこと。それは、Appleは確かにJobsが興し、彼が再興した企業ではあるが、彼一人だけの力によるものではないこと。

たとえば、Macintosh(とその姉のような存在のLisa)が広めたマルチウィンドウは、QuickDrawがあればこそ、だった。内蔵ROMに格納され、画面描画を一手に引き受けるこのソフトウェアは、Bill Atkinsonというエンジニアの手になるもの。
そのBillは、JobsがAppleを追われ、John Scully体制になった後でHyperCardという革命的なオーサリングツールを開発し、全Macへの標準添付を実現している。カード型データベースのようでありながら、画面のパーツと、そこに組込まれたスクリプトの記述により、電子絵本やゲームから住所録、ビジネスデータの整理まで、様々な活用が可能な、素人のための簡易プログラミング環境。
残念ながら開発はだいぶ前に止まっているが、インターネット時代に入り、ソフトウェアやサービスの開発にスクリプト言語を使う機会が増えていることを思うと、HyperTalkというスクリプト言語を備えたHyperCardは、当時では考えられないほど先を見通したソフトウェアだった。
Jobsが去ったAppleにおいても、残っているエンジニア達がHyperCardだけでなく、QuickTimeなど現在に至る様々な革新を行ってきた。Jobsがいなくなり、すぐに業績が悪化した訳ではなかったのだ。

そういう気風が、肥大化した組織で運営に支障をきたした時、Jobsが戻ってきた。その後も、必ずしもすべて順風満帆に事が運んだ訳ではない。
Mac G4 Cubeは高い評価をうけつつも、セールス的にはうまくいかずに自ら製品ラインを閉じたし、iPodの成功だって雪崩を打って大きくなるには2〜3年ほどかかっている。
Mac OS Xへの切り替えは、今からみればスムーズだったようにみえるが、旧来のMac OSのユーザを失い、シェアがどんどん下がった時期もある。しかし、10.0から数えて4度のメジャーバージョンアップとなる10.3 "Jaguar"の頃から、ユーザには安定して使いやすいOS、開発者には無償の開発ツールとUNIXが素で使えるOSとして、評価され直していった。
今やMacBook Airの成功とともに、ユーザは増え続けている。

こうしたことを通じて、おそらくAppleを、エンジニアから製品管理、マーケティングに至るまで、層の厚い企業に育て直すことにも成功したはずだ。
つまり、最初にJobsがいなくなった後がしばらくは大丈夫だったように、いやそれとは比べ物にならないくらい強い企業になっているはずだと思う。
そうでなければ、いくらJobs一人がすばらしいビジョンを持っていたとしても、矢継ぎ早にiPhone、iPad、MacBook Airといった、傑作と呼べるラインナップを次々には作り出せない。
そういう意味では、彼が亡くなったとしても、いきなり魅力がなくなってしまうわけではないだろう、と思っている。

とはいえ、Jobsのように強いビジョンと妥協を排する胆力がなければ、その最初の体制を整えることは不可能だったろう。
人生の最後の14年を、これほどの勢いで駆け抜けた人物。
アメリカどころか世界で有数の企業は、近年のアメリカによくみられる、マネーがマネーを呼ぶ金融商品は扱わず、夢を論理的かつ実直に実現する製品とサービスのために力を尽くす会社として、その地位を得たし、そこに導いたのがJobsであった。
合掌。

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2011.05.06

ホテルフジタ京都のあとには

ホテルフジタ京都が今年1月に閉館したことについては、当ブログでも話題にした

その後の動きとして、米国の高級ホテル、リッツ・カールトンが跡地に進出予定であることが報道された。
たとえば、京都新聞のこちらの記事(4/30)。

客室140程度というのはほぼすべての報道で触れられているが、この記事によれば地上4〜5階とのこと。ホテルフジタより低層になるのか、天井を高くゆったりとって同じ程度の高さで4〜5階になるかはまだわからない。
ただ、盆地で広々とした平野の少ない京都は、ちんまりした客室のホテルが多かったが、ここは平均的にゆったりした造りにする、ということだろう。
そうして、よくある商業ビルにならないことがよかったかどうかは、2014年春以降にわかるのだろう。

ところ、ホテルフジタ京都に宿泊すると、客室に案内が置かれていて、その日時にある観光行事などがまとめられていた。
それは「かるがも通信」という名だった。フジタの庭にいた、かるがもの親子を思い出す。半地下の和食の店から、朝日の中を遊ぶかるがもの親子はかわいいものだった。(みながら朝食をとった。)
あのかるがも達は、どうなるんだろうなぁ。

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2010.12.14

東京都の青少年健全育成条例改案、3度目に可決の流れ

今年の3/18から3/19にかけて、記事1記事2記事3でとりあげた都の青少年健全育成条例改案。
3月および9月の二度の否決からさらに変更を加えて、今度は都議会最大会派の民主党が賛成にまわることで、可決の流れとなっている。既に都議会総務委員会では可決され、12/15都議会の本議会でも賛成多数で成立の見込み。
(たとえば、アサヒ・コムの記事は12/10の経過説明と都議会12/13の総務委員会の記事。YOMIURI ONLINEでも12/13の総務委員会の記事と、12/14の経過説明がある。)

これに対して、コミック10社会(講談社、小学館、集英社、角川書店ら)が東京都主催の東京国際アニメフェア2011への参加を見合わせる、と対抗措置を発表している。
(たとえばアサヒ・コムの12/10の記事。)
この動きは、Twitter上で角川書店重役がつぶやいたことから、瞬く間に広がって、新聞記事より先に知っている方もいたはず。

Twitterでの本条例への反対意見は「表現の自由」という観点からが多い。
また、都知事や副知事がそもそも作家であること、特に都知事の石原慎太郎氏に関しては代表作「太陽の季節」を刊行した人の発言とは思えぬ、といった言葉もよく見受ける。

***

ただし、これは都議会での出来事。つまり、従来の18禁指定のあり方・枠組みを見直すタイミングとして、たまたま話が通じやすい都知事・副知事をいただいている内に、なんとかやってしまいたいと考えている人々もいたのではないか(憶測ではあるが)。
一方で、東京都はアニメやコミックを輸出産業の一つとして捉えているようなので(でなければ国際アニメフェアなどやらないはず)、輸出商品として性描写を抑制し、他国で受け容れやすい作品を前面に出したい、といった思惑も働いているのかもしれない(これも憶測だが)。

親としてみせたくないマンガなどを子供が手に取れないようにしてほしいと考える親達もいる、ということもあるはず。
さらに、もっと単純に「気持ち悪い人にそばにいてほしくないし、そういう人を生み出しかねない何かはすべて排除してほしい」と考える人もいるかもしれない(ちょっと極端な例だが)。

ただ、そもそも子供にどんなものを見せ、与えていくかは、親(もしくは親相当)が子供の状況を見つつ、また子がある程度成長してきたら話をしながら判断することであり、一律に出来るものではない。
売り場のゾーニング(区分)は今でも行われている。それを超えてこんなものは見せられないと親が思ったら、親が子に対して、そうすればいい。子が言うことをきかないとしても、それを行政に預けることが本当にいいことなのか。
また、親が完全にコントロールすること、さらに教師その他が完全にコントロールすることも不可能だ。万が一意図せぬ形(たとえば同級生や上級生に見せられた等)で子供向けではないマンガを見せられてしまった場合も、親や、心を開ける知り合いなどとともに考えながら成長していくべきもの。
そうやって、グレーゾーンやブラックゾーンがこの世にあることを知りつつも、自分なりの距離の取り方を学んでいくはず。
以前にも書いたが、子供を無菌室で育てられるわけではないし、ある人が何を好むかも千差万別であるし、多くの子供は創作が一種のファンタジーであり、現実そのものではないことも学んでいくものだ。

親が、また所属コミュニティ(地域だけでなく趣味を媒介とすることもあるだろう)が、そのような選択や判断を行っていく相互成長の過程を、本当に自治体や国などに委ねていいのだろうか。
私はむしろ、その点が一番気になる。成立した場合、悪法・悪条例とならぬようにみていく必要があるし、問題が多いと判断する都民も一定数いるなら再考してもいいはずだ、というのが現在の所管である。

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2010.05.11

iPad予約開始、日本ではSIMロックのみ

先日、「iPad、日本での発売日が決定」で、ソフトバンクから提供されるiPadはSIMロック端末(ソフトバンクのSIMカード以外は使うことが出来ない端末)であること、ドコモがiPad対応のSIMカードを発売する意志があることについて触れた。
そして、日本で発売されるiPadに、ドコモのSIMカードを挿して使えるか、早く確認がとれるほうがいい、とも書いた。

週が明け、予約受付が始まった5月10日、日本で発売されるiPadはすべてソフトバンク向けのSIMロック端末であることが確認された。
たとえばITmediaの記事(5/10)、Internet Watchの記事(5/10)で、Apple広報の公式コメントとして、発表されている。

これにより、日本で公式に発売されるiPadには、ドコモのSIMカードを挿して通信することは不可能であることが確定した。
(SIMロックのないiPadを使えば不可能ではないはずだが、日本の正規代理店以外で購入すること、またドコモなどのキャリアがそのような端末のために対応SIMカードを出すかを考えれば、利便性の低い選択になる。)

ドコモの社長がなぜ触れたかはいろいろな憶測がなされるだろうけれど、出てきた事実としては、SIMロック端末であった、ということ。

***

ちなみに、Internet Watchには予約体験記(5/10)が出ている。
予約開始当日に並んできたため、予約に必要なもの、確認すべき点、料金プランについての簡潔な説明がある。タイミングのよい記事。
ただ、予約が発売日当日に渡すことを保証せず、発売日当日も並ぶことを要求するというのは、驚き。

私はもう少し様子をみるつもり。まぁいつ気が変わるかわからないけれど。

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2010.05.08

iPad、日本での発売日が決定

既にTwitterやブログ、またニュースサイトや新聞などで伝えられているが、iPadは5月28日より発売開始、予約受付は5月10日から、と発表された。

アップルのプレスリリース

ソフトバンクモバイルのiPadページ

iPadはWi-Fiモデルと、3G/Wi-Fiモデルがある。

Wi-Fiモデルならば、家電量販店やApple Storeで購入、通信キャリアに縛られずに使う一方で、無線LANによる通信となる。

日本での公式の3G/Wi-Fiモデルは、iPhone同様にソフトバンクモバイル(以下ソフトバンク)から出ることになる。
ソフトバンクとの契約が必要になるが、3Gと無線LANで通信できる。この契約は、ソフトバンクによるMobilePointのアクセスポイントも使用する権利が含まれる。また、端末を分割払いで購入することもできる。
ただし、SIMロックがあり、3G回線はソフトバンクとの通信しか出来ない(ソフトバンク用SIMロックiPadはソフトバンクのSIMカードしか使用できない)。

ドコモはiPadに挿せるSIMカードの発売に言及してきた(マイクロSIMカードはこれまでの携帯電話で使われてきたものとは規格が異なる)。
SIMフリーのiPadがあれば、そこにドコモのSIMカードを挿すことで、ドコモの3G回線を使用できる。この場合、契約する料金プランがスマートフォン向けのプランの実用的な料金を活用できないと、通信料が非常に大きくなる。あえて言及してきたからには、実用的な料金で契約可能、と期待したいところだ。(そうでないならば、ドコモの通信事業としてiPadは諦めたも同然、ということになる。)
このあたりはまだ情報が明らかになっていないため、今後の情報開示が待たれる。

とはいえ、ソフトバンク発売が確定したため、ドコモのSIMカードが使える端末が(公式に日本には)出ない可能性もある。
個人的には両方出て、ユーザの事情に応じた選択が可能な方がありがたい。さらに、この件がはっきりしないと、どのモデルを購入すべきか決めにくい、という人も少なくないはずだ。
そのあたりも含めて、早く情報が出ることが望ましい。

また、Wi-FiモデルのiPadであっても、E-MobileのPocket Wi-Fiを活用すれば、3G回線をWi-Fi経由で使うことは可能である。

***

いずれにせよ、iPadが日本に公式に上陸する日が確定した。
どうも電子書籍端末、Kindleとの比較、という側面が(新聞報道などでは)強調されるきらいがある。iPadの本質は、やはりそこではないと思われる。
このあたりはまた別途まとめてみたい。

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2010.03.19

東京都の青少年健全育成条例の改案、審議継続に

先日、東京都の青少年健全育成条例の改案について、よくない案であること、それは人々の選択の自由の機会を狭め、子供たちが選択することを学ぶ機会も奪う方向で運用することも可能であることから懸念している、と書いた。つまり、反対である。

3/19の午後に行われた会議(都議会の総務委員会)において、審議継続となった。3/30の本会議で正式決定となり、その後は委員会で検討を続け、再び6月の都議会で採決をとることになる。
アサヒ・コムの記事(3/19)、YOMIURI ONLINEの記事(3/19)などを参照。また、Internet Watchの記事(3/19)は審議経過も伝えている。)

***

3/30の本会議がどうなるかを注目する必要はあるが、現段階では強行採決のような動きには至らないだろう、ということはわかった。
条例改定を推進する側にとっても、反対する側にとっても等しく時間ができたことになる。この間に、本当に大切な議論を進めることが大切になってくる。

反対派は、いわゆる俗悪なマンガ等の表現が性犯罪を増やす訳ではない、というところに力点を置きたがる。ただし、賛成派はそのようなことはあまり考えていないようだ。
その答弁を読む限り、普通の人にとっては気持ち悪い表現が、街やネットの至るところにあること自体がおかしい、それは規制かつ根絶されてしかるべき、というのが動機のように見える。
つまり、議論のとっかかりや噛み合わせよりも、良識に従えば普通気持ち悪いものが大手を振ってるのはもうたくさんだ、という心情を相手にすることになる。
情緒に対して、論理を説いても、噛み合わない。なので、どうすれば同居しやすくなるか、を落とし所の一つに考えるのも、一つのやり方かもしれない。

***

ところで、現在のところ、大きな新聞が取り上げる反対の流れは、漫画家などが中心だ。また、日本ペンクラブも反対の声明を出した(アサヒ・コムの記事、3/18)。

これらはほとんど、表現の自由に関する懸念、という観点で報道されている。
しかし、たとえば竹宮恵子氏が3/17の東京新聞朝刊(特報ページ)で答えたインタビューには、以下のようにある。

「社会で悪とされるものは、社会が求めるから存在している。なぜ存在するかを考えなければ。そうでなければ、いくら規制しても、違法薬物と同じで地下に潜っていくだけ」と指摘する。

この簡潔なメッセージは、「表現の自由」という文言の持つ本来の意味を示している。「風と木の詩」は同性愛や強姦を描いているため、委員会の審議の過程で質疑に入ったが、そこで問題なしと出ている。ただし、これは既に社会的な承認を経たから出てくる答えであり、出版当時はまさに顰蹙を買い、物議をかもした作品だった。
竹宮氏はおそらくそのようなやりとりとは別に、善を考えるには、悪をきちんと見つめないと心底はわからない、という至極真っ当なことを想定されているはずだ。
そこに触れた記事が出てきたのは、よかったと思う。

また、私のいう「選択の自由」は、こうしたことを学ぶために必要であり、作品を発する側、受け止める側の双方に大切なことでもあるはずだ。さらに、たとえばエロやグロを嫌う人々、それを好む人々が、同居してしまう社会でお互いを非難合戦にしないための視点だと考えている。

***

なお、時間が少ない中で書いため、前回触れ損ねたことを少し。

インターネット関連の立場からも、反対の表明の声はあがっていた。
Internet Watch、3/12の記事では、「東京都地域婦人団体連盟(東京地婦連)、東京大学大学院 教授 長谷部恭男氏、ネット教育アナリストの尾花紀子氏、モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)、ECネットワーク、電気通信事業者協会(TCA)、テレコムサービス協会(テレサ協)、日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)、モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)、CANVAS」といった諸団体が反対している。
さらに、ネットビジネスイノベーション研究コンソーシアム(Google、Microsoft、DeNA、Yahoo! Japan、楽天などを含む)からも反対が出ていた(同誌、3/15の記事)。

インターネットに関する懸念が新聞にほとんど掲載されないのは、ひどく気にかかる。
この条例案は、インターネットや携帯電話についても踏み込んでおり、都が推奨する携帯電話の機種を指定する、といったことも文言に含まれている。機種選定等はそれこそ親子で決めることであるはずだ。

インターネットは、いきなり様々なコンテンツにアクセスできるため、より「選択の自由」を強く深く意識して、子供に教える必要が出てくる。その過程においては、技術的に実現できるフィルタリングなどを適用して、一定の年齢以下の子供を保護する必要も出てくるだろう。
ただし、そのフィルタリングについては、複数のパッケージがあって、それを親子、あるいは所属コミュニティなどで選択できるほうがいい。一意にすべての人々が、同じフィルタリングを使うことを推奨されるような事態も、かえって学びの機会を奪いかねない。
というのは、フィルタリングのパッケージが複数あり、また設定のパターンも選択できるなら、年齢があがるにつれてフィルタリングをゆるくしていくことも可能になるのではないか。その時点で親や教師やコミュニティの人々が、なぜこうした制限が解除されるのかを子供に伝えたり考えさせたりする機会も作れるはずだから。

今後の報道においては、新聞にもぜひインターネット関連のことに触れていただきたいものだ。

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2010.03.18

東京都の青少年健全育成条例、改案のあぶなさ(2)

(1)からの続き]
こういった情報から、読み取れることを考えていくと…

東京都は出版社、ゲーム制作会社などが密集している。また、東京国際アニメフェアなども開催されている。そこでこの条例を発行できれば、全国規模での抑え込みに効果あり、という含みが、この条例案にはあるだろう。

ただし条文を参照するとわかるのだが、雑誌やテレビ、ゲームなど既存のメディアとともに、いやむしろ強く、インターネットでの流通を規制しようとする趣旨も読み取れる。
インターネット・プロバイダーが青少年と契約する際にフィルタリングを推奨することを事実上必須化する条文もあるし、携帯電話で流通するコンテンツにおいても東京都が推奨を定めて事業者に従うよう勧告する条文もある。

いずれにせよ「18歳未満の登場人物が何らかの形で性に関することに触れており、それを肯定的に描いたらアウト」に持ち込むことを目的にした条例だ。
また「そのような制作物を何らかの形で所持していてもアウト」に持ち込むことも含まれているように見受ける。

つまり、提案者達の真の目的は「青少年の育成に害のある」あらゆるコンテンツを、制作・発表の段階で制限をかけ、また流通・所持の面で排除することであろう。
またその対象は、育成される青少年だけでなく、制作・流通・所持が可能な大人の側を積極的に取り締まることに重きがある。
大人なら自分の責任でやることに関しても規制を加える、という点が重大である。

***

民主主義国家であり、個人の自由と尊厳をうたう憲法をいただく国家や自治体の定める条例には、まったくもって見えない。

これは、新聞報道にあるような「表現の自由」という問題だけではない。
提供されたものを、自分の意志で選びとる「個人の選択の自由」に制限をかける点が問題だ。
いや、こっちのほうがずっと重大な問題だ。

***

子どもをショッキングな表現から守ることは、必要ではある。
実際、出版物や制作物における自主規制は(過去に児童ポルノ法などが取り沙汰される前からも、その後でも)行われているし、流通や売り場におけるゾーニングなどもある。

一方、純粋培養・無菌(に近い)状態で人を育てて、どうしようというのか。
世の中にはいろいろな人がいて、いろいろな好みがあって、いろいろな考えや立場が存在しうる。そういうことをまったく知らないで過ごすこともまた異常なことだし、実際問題として不可能だ。

様々な世の中や人間のことを、親が、あるいは周囲の近しい人々が、何らかの形で子に示しながら、その子なりの選択が可能になるように支えていくのが、本来の姿だろう。学校の教師が細かく入り込めないそのような部分のためにこそ、親や親相当の保護者がいるんじゃないのか。
各人の選択については、一括して法律や条例で規制することではなく、親が子の育つ過程をみながら、また親と子の価値観を付き合わせながら、個々に決めていくこと。

その貴重な過程の一端を奪ってしまうことで、かえって教育に悪影響が出る弊害のほうが大きいだろう。
インターネットにおけるフィルタリングについても、一括で行うのではなく、個々の親が判断すること、またその判断が大変ならば、助けになるようなパッケージが複数あって、選べることなども重要ではないか。

***

この条例案に反対することは、児童ポルノ等のコンテンツを容認する、ということではない。
人を育てる上で大切な自由意志の成長、また個人の選択の自由を奪う、恣意的な運用も可能な条例案であり、その弊害があるからこそ反対する、ということだ。


いまのところ審議継続の流れと言われてはいるが、実際にどうなるかは審議当日にならないとわからないのも事実。このような報道が出ることで、成立を目指す側のロビー活動(のような動き)が活発になる可能性もある。
つまり、まだ安堵できる状況ではまったくない。時間を少し稼げただけ、である。
しかし、それでも当初の「このまま成立しそう」よりはマシ。時間が限られているが、成り行きと対策は意識しておくほうがいい。

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東京都の青少年健全育成条例、改案のあぶなさ(1)

3月、ひな祭りをすぎて数日あたりの頃、突如浮上してきた、東京都の条例改案。
すでに機能している青少年健全育成条例(正確には青少年の健全な育成に関する条例)を、さらに改訂するとして議決対象になっているのだが、かなり問題があるとTwitterやBlog界隈で話題になっている。

情報をまとめているサイトとしては、東京都青少年健全育成条例改正問題のまとめサイト が質・量ともにすごい(頭が下がります)。
また、弁護士の山口貴士氏がご自身のブログで、条文とその問題点の解説を、【表現規制反対!】東京都青少年の健全な育成に関する条例の改正案【問題多すぎ!】 でまとめている(専門家ならでは記事)。
審議採決が行われるのは、3/19の金曜日。

Twitterならハッシュタグ #hijitsuzai でポストを追いかけることが出来る。

大手の新聞記事としては、アサヒ・コムの記事(3/12)があるが、ここでは「マンガ・ゲーム・アニメの児童ポルノ規制」という見出しで取り上げられている。条文には「児童ポルノの根絶」が確かに入ってはいるが、射程範囲のニュアンスが異なっている面もある。つまり、「非実在青少年」という新語を出し、想像上のいわゆる「キャラクター」を規制対象にしている点で、これまで議論されてきた児童ポルノから一歩踏み出した動きが見受けられる。
すなわち、18歳未満の登場人物が性にまつわることを肯定的に描いたらアウトにする、というのが目的に見える。当面はマンガ、アニメ、ゲームなどの画像描写に限るような報道が出ているし、それは当事者が語っているのだろうが、規制の対象がはっきりしない以上、美術や写真、小説などに多方面に広がる可能性がある。
そのあたりもふまえてか、本日の記事(3/17)で、都議会第1党である民主党が審議継続に傾きつつあるという報道では、児童ポルノという単語は用いなくなった。

YOMIURI ONLINEの記事(3/17)は出版トピックの欄に掲載され、発端と経緯が簡潔にまとめられている。

これら新聞記事から、3/19の委員会で 3/18の委員会および3/19の会議で審議継続となり、いきなり採決されてしまう公算は弱まっている、ただし3/30の本会議で最終決定、ということもわかってきている。

[3/18午後追記]上記の日程に関して、訂正しました。また、3/18の委員会を傍聴している方々のTwitter情報によれば、審議継続ではなく、3/19採決の方向で話が進んでいる、との追加情報もあります。今後の流れに注目。

***

以上が追いかけやすい情報源。
(この項目、(2)に続く

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2009.11.04

レヴィ=ストロース、逝去

フランスの人類学者、構造主義の先導者、現代思想の一時代を築いたクロード・レヴィ=ストロースが逝去。享年100歳。
ル・モンドのサイトではトップ記事
アサヒ・コムYOMIURI ONLINEにも日本語の記事あり。

「悲しき熱帯」、「野生の思考」の衝撃は、事後に読んだ私にも大きかった。
20世紀後半の西欧で、西洋的な思考の枠組みそのものを見透し、脱西欧とともに人類共通の構造を見据える視線は、人類学という学問の枠のみならず、様々な分野に波及した。
20世紀後半を代表する思想家であり、彼の死をもって、20世紀的なものがいよいよ閉じていくような気さえしてくる。
それが2010年代を前にして、100歳という御年で迎えられたことも、偶然ではない符号のように感じられたりする…

などということはさておき。
深く御冥福を祈るものです。合掌。

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2009.10.08

10/8のCEATEC、展示は開いてるが、講演は中止

ITmediaの記事でも、公式のコンファレンスカレンダーでも、10/8の講演はすべて中止になった模様(大型台風のため)。
もっとも幕張メッセに至る京葉線は台風の影響で止まるか、間引き運転になるだろうし、駅からメッセまで歩くのもなかなかタイヘンと思われるから、行くこと自体を勧めないのも正解だろうな。講演関係者はたいへんでしょうけど。

今年はカンファレンスに行って、あまり展示会場を見ていない…
のだが!
展示会場に行くなら、東芝のCell REGZAとかSONYとかPanasonicとか、ドコモとかKDDIとかもいいけど、NICT(独立行政法人 情報通信研究機構)のブースもぜひ見ましょう。補正予算を、ここの次世代ネットワーク研究のためのテストベッドなどに出さなかったのが、果たして今後の日本を考える上でよかったのか、考えてしまうな(欧米は推進継続のため、日本の先行の利がなくなってしまう)。

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