S.Jobs逝去
本日のお昼前から、ネット界隈だけでない、一般ニュースも含めて騒然となったニュース。
Apple創業者(当時はApple Computer)にして、一度は追われながらも返り咲き、Macの製品ライン刷新とiPodで瀕死の企業を建て直したばかりか、MacやPCの次の時代をiPhoneやiPadで創造したS. Jobsの逝去。享年56歳。
あちこちで報じられているので、もうあえてリンクは貼らない。
それにしても、CEOを後継のTim Cookに譲り、彼らがiPhone 4Sを発表した直後とは。
なんというタイミング。
ただ、もう一つ思うこと。それは、Appleは確かにJobsが興し、彼が再興した企業ではあるが、彼一人だけの力によるものではないこと。
たとえば、Macintosh(とその姉のような存在のLisa)が広めたマルチウィンドウは、QuickDrawがあればこそ、だった。内蔵ROMに格納され、画面描画を一手に引き受けるこのソフトウェアは、Bill Atkinsonというエンジニアの手になるもの。
そのBillは、JobsがAppleを追われ、John Scully体制になった後でHyperCardという革命的なオーサリングツールを開発し、全Macへの標準添付を実現している。カード型データベースのようでありながら、画面のパーツと、そこに組込まれたスクリプトの記述により、電子絵本やゲームから住所録、ビジネスデータの整理まで、様々な活用が可能な、素人のための簡易プログラミング環境。
残念ながら開発はだいぶ前に止まっているが、インターネット時代に入り、ソフトウェアやサービスの開発にスクリプト言語を使う機会が増えていることを思うと、HyperTalkというスクリプト言語を備えたHyperCardは、当時では考えられないほど先を見通したソフトウェアだった。
Jobsが去ったAppleにおいても、残っているエンジニア達がHyperCardだけでなく、QuickTimeなど現在に至る様々な革新を行ってきた。Jobsがいなくなり、すぐに業績が悪化した訳ではなかったのだ。
そういう気風が、肥大化した組織で運営に支障をきたした時、Jobsが戻ってきた。その後も、必ずしもすべて順風満帆に事が運んだ訳ではない。
Mac G4 Cubeは高い評価をうけつつも、セールス的にはうまくいかずに自ら製品ラインを閉じたし、iPodの成功だって雪崩を打って大きくなるには2〜3年ほどかかっている。
Mac OS Xへの切り替えは、今からみればスムーズだったようにみえるが、旧来のMac OSのユーザを失い、シェアがどんどん下がった時期もある。しかし、10.0から数えて4度のメジャーバージョンアップとなる10.3 "Jaguar"の頃から、ユーザには安定して使いやすいOS、開発者には無償の開発ツールとUNIXが素で使えるOSとして、評価され直していった。
今やMacBook Airの成功とともに、ユーザは増え続けている。
こうしたことを通じて、おそらくAppleを、エンジニアから製品管理、マーケティングに至るまで、層の厚い企業に育て直すことにも成功したはずだ。
つまり、最初にJobsがいなくなった後がしばらくは大丈夫だったように、いやそれとは比べ物にならないくらい強い企業になっているはずだと思う。
そうでなければ、いくらJobs一人がすばらしいビジョンを持っていたとしても、矢継ぎ早にiPhone、iPad、MacBook Airといった、傑作と呼べるラインナップを次々には作り出せない。
そういう意味では、彼が亡くなったとしても、いきなり魅力がなくなってしまうわけではないだろう、と思っている。
とはいえ、Jobsのように強いビジョンと妥協を排する胆力がなければ、その最初の体制を整えることは不可能だったろう。
人生の最後の14年を、これほどの勢いで駆け抜けた人物。
アメリカどころか世界で有数の企業は、近年のアメリカによくみられる、マネーがマネーを呼ぶ金融商品は扱わず、夢を論理的かつ実直に実現する製品とサービスのために力を尽くす会社として、その地位を得たし、そこに導いたのがJobsであった。
合掌。
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