7月、久々に京都に行ってきた。
ここ数年、あまり訪れる機会を作れずにいたが、祇園祭が終盤を迎える7月下旬、なんとか時間を作った。
今回は、原点の一人旅。最近は同行者がいるか、一人で訪れても誰かと会う予定が入ることが多い(昨年は一人旅だったが、引越の最中で日帰りだった!)。純粋に一人でフラフラするのは久しぶりだ。
原点回帰ならと、たびたび泊まってきたホテルフジタ京都に予約をいれた。
1990年代までは老舗ホテルとしてにぎわっていたが、2000年代はどうも静かなことが多いように感じる。
しかし、今でも地の利はある。木屋町二条は京阪三条や河原町と程々の距離があって静か、高瀬川や鴨川の落ち着いた風情も楽しめる。寺町二条の落ち着いた商店街にも、御池から三条・四条あたりの洛中繁華街も、徒歩圏内。
歩くことが苦にならないなら、楽しい旅になる場所だ。
しかし、今回ほど空いていると実感したことはなかった。
京都バブルはもう去ったのだろうし、祇園祭のクライマックスも過ぎている暑い夏とはいえ、こんなに人が少なかったことは記憶にない。
もちろん、ホテルの対応に不愉快なことはなかった。以前の、日本のホテルの標準となるような目配せのきいたサービスは、いまはどこでもなかなかうけられないものだ。おそらく以前より、人員も削減されている。ハードウェア(建物や設備)も最新のホテルよりやや見劣りはする。しかし、こちらの様子をみながら、無料のLAN接続をケーブル付きで勧めてくれたし、ドアボーイやフロントも丁寧に応対してくれた。掃除も行き届いていた。
素泊まりだったため、朝食時にどれくらいの混雑だったかがわからない。それでも、雰囲気として、落ち着いている以上に、静かすぎる印象を持った。
2000年あたりから、いつかは改装するだろう、その時にはどうするつもりなのかと思ったことがある。ついにこうなったか、それともこの時期だけかと、失礼ながら考えてしまった。
8月末、ホテルフジタ京都のメールサービスで、今後の観光案内とともに、2011年1月29日で営業終了になる、とあった。
驚いてWebで確認すると、トップページに8月5日付で支配人からの案内が出ていた。
賃貸契約終了に伴い、ホテルフジタ京都は2011年1月29日で営業終了、今後は同グループの京都国際ホテルの改装を進め、フジタのノウハウも集約させていくという。
少し調べてみると、ホテル単体としては赤字経営だったわけではないようだ。藤田グループの負債圧縮の一環として、土地建物を積水ハウスに売却した上で、賃貸して営業を続けていたという。
ということは、かつてほどではないにせよ、繁忙期は賑わっているのだろう。
積水ハウスが用途を決めたので賃貸契約を更新しない、というのが真相かもしれない。
が、考え方を変えれば、鴨川の落ち着いた風情ではなく、二条城前の観光ホテルとしての賑わいをとったことになる。
***
考えてみれば、自分だって京都に慣れるにつれ、また京都の変化に伴い、動線は変わってきている。
京阪三条ターミナルは、以前は市バス、京都バス、京阪など様々な便の要所だったし、そこに程よく近いホテルフジタはいい立地だった。2000年あたりからターミナルが再開発され、京阪の中心地となった。市バス停留所は動き、利用者は川端通や河原町、御池などを使うほうがラクになった。
自分の動線も、河原町を歩くことが減り、寺町と烏丸通の間を歩きながら楽しそうな店を見つけることが増えた。現地をよく知る人に教えていただいた店へ直接赴くこともあるが、そういう店は繁華街とは限らない。
京都は長らく、東寄りに人が密集する傾向があったが、地下鉄が通り、京都駅が改装された頃から、少し西へと分散し始めているように見受ける。
さらに、四条から御池の河原町周辺に人が集中しなくなっているせいか、烏丸通に近いビジネスホテルに泊まる人も少なくない。
鴨川の地を失うことが本意かどうかはわからないが。
木屋町二条の鴨川よりも西にあり、二条城前という絶好の観光資源が残っているなら、むしろ西に動いて、海外からも日本からも様々な人が集結する観光ホテルという立場を活かすことも、一つの方法だ。
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それでも、思い出す。
心身の不調を抱えていた頃、たまには息抜きしたいと、医者に相談して薬も出してもらった上で、ホテルフジタ京都に泊まったことがある。
案の定、気分が悪くなり、食欲もわかない。予定を変更し、フロントで一番近い医者を相談したところ、ホテルに通ってもらっている医者がいるという。すぐは無理だが、昼過ぎには可能とのことで、連絡をとってもらった。それまで部屋で休んだ。
昼過ぎ、現在服用している薬を見せた上でみていただくと、軽い風邪だろうとのこと、併用しても問題ない薬を処方の上、夜になっても気分が悪いようなら、明日もみると約束してくれた。
服用してしばらく寝た。午後6時すぎにはいくらか気分がよくなり、少し食欲も出てきた。ツレと軽くうどんでも食べに出ようと1階に下りると、フロントが気を遣ってくれた。食べてから戻った際、快方に向かったため、翌日の診察は不要と告げると、ほっとした様子が伝わってきた。
寝て、たまに起きると、部屋から見える鴨川をぼーっと眺めた。冷房がほどよくきいた部屋で、静かに鴨川をみていると眠くなる、それを3セットほど繰り返した。
午前、午後、夕方。その都度、東山と鴨川の表情が変わる。気分こそ悪いが、静かで心地よい部屋にいると、昼間に出かけないのも悪くない、などと苦笑した。通いの医者がいるホテルならではの安心感だろうが、鴨川が見えることがこれほど慰めになるとは思わなかった。
それに、朝食を地下の和食でとると、バイキングでないため、朝定食を運んでもらえる(最近はどうなっているか知らないが)。いちいち立ち上がってとる必要もなく、じゅうぶんな量が出る。ご飯はおひつでやってくるから、大食いでなければお腹いっぱいになる。
窓の外は石と水の庭。春夏は、ここにかるがもの親子がやってくる。ぜんまい仕掛けのように動くかるがもの子らを眺めつつ、ゆっくり食べる。楽しいものだ。
そういえば、部屋においてあるコピーの観光案内(今の季節のお祭りや行事などを掲載)は、かるがもだよりという。
有名なステーキハウス近江に入らなくとも、施設を利用するだけでちょっといい気分になれるのは、いいところだと思う。
鴨川沿いの、あのホテルに泊まれない…というのは、自分にとって京都の景色が一つなくなることを意味する。
それはやはり、さみしく残念である。
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